3月4日 奄美市住用町某所
アマミヤマシギの調査で夜間巡回していると、ふたつの面白い光景に出くわした。
ひとつはリュウキュウコノハズクのお食事風景。リュウキュウコノハズクは2月から3月にかけて、よく道路に降りて餌を探している。おそらくこの時期に出てくるガが目当てではないかと思う。というのも、車が近づいてもあまり逃げようとはせずに、むしろヘッドライトに集まるガを狙って何度も捕獲にトライすることがあるからだ。成功率は高くないが、飛び回るガを目で追い飛び掛るリュウキュウコノハズクのしぐさはなかなかに愛らしい。このときも路上でガを追っているかと思いきや、いきなり路肩の草むらにダイヴした。見事なにかを仕留めたようで、足でしっかり確保したまま、おもむろに嘴で肉を引きちぎりはじめた。双眼鏡で見てみると、なにやら長く光沢を帯びたものがくねりながら抵抗している。どうやら獲物は小さなヘビか大きなミミズのようである。リュウキュウコノハズクはこの大物の餌がいたく気に入ったらしく、路肩にどっかと腰をすえて悠然と食べだし、こちらを気にするそぶりもない。もしかして近づけるかなと車を降り、腰を落としてじわじわと擦り寄っていく。5メートルの距離に近づいても逃げない、3メートルでも逃げない。さすがに2メートルまで近づいたら警戒しだしたが、それにしても無防備なこと。こちらがカメラのシャッターを切るのもお構いなしで獲物を平らげると、ようやく重い腰を上げて飛び去っていった。
もうひとつは路上で徘徊するケナガネズミ。樹上生活が得意なケナガネズミは地面に降りてしまうとたいへん動きが鈍い。したがってじっくり観察できるのだが、この日出合ったケナガネズミはまだ幼獣のようで、普通のケナガネズミよりもさらにのんびりしていた。車から降りて近づいても逃げるばかりか近寄ってきたりして、おいおいってな感じである。半ば追いやるように山の斜面に返すと、しぶしぶといった動作で、木にはい登っていったのだった。
3月14日 奄美市名瀬浦上
奄美野鳥の会のメンバーから、市内の公園に観たことのないツグミがいるという連絡を受ける。胸が黒くて、お腹は白、背中はのっぺりしたグレーという説明にあてはまる鳥といえばノドグロツグミ、しかも亜種ノドグロツグミに他ならないではないか。半信半疑の気持ちで出かけたが、日曜の都市公園ということで子どもたちや家族連れでごった返しており、鳥の姿は1羽も見当たらない。それでも諦めきれずに、公園の周囲の畑や空き地を丹念に見て回ると、ツグミやシロハラはちらほら発見できた。背中がグレーっぽい個体を見つけ、心拍数がいきなり上がったかと思えばハチジョウツグミ。期待しただけに落胆も大きい。そうやって公園の周りをぶらぶらすること三周目、そいつは唐突に現れた。とある空き地で1羽のツグミとさかんに餌をとっているその鳥はまぎれもなくノドグロツグミのオスではないか。餌探しに夢中でこちらをほとんど警戒していないため、10mくらいの距離まで近づける無防備状態である。
慌ててデジカメを取り出すが、手が震えてシャッターがなかなか押せない。ビデオに切り換えても、キャップをつけたまま撮ろうとする体たらく。久々のライファーにすっかり舞い上がっている自分が恥ずかしい。少々落ち着いて至近距離からよく観ると、黒い胸の上部には赤褐色の斑があり、尾羽の基部も赤褐色である。どうやらこの個体は完全な亜種ノドグロツグミではなく、亜種ノドアカツグミとの交雑個体のようだ。ノドグロとノドアカの繁殖地の重なる部分では、どうやらこのような個体が自然分布しているらしい。その意味でも非常に珍しい観察記録であろう。
やがて公園の人影がなくなると、ツグミとともに公園のグラウンドに移動。草地で餌をついばみ始める。しかし休日の公園はひっきりなしに人がやってくる。そのたびごとに公園の周りの木に避難し、人が去るのをじっと待っている。飛び立つときに地鳴きを聞いたが、ツグミとよく似た「クエッ」という声だった。