2013年 5月のフィールドノートから

5月1日 奄美市少年自然の家

 名瀬の赤崎にある少年自然の家の敷地内でオーストンオオアカゲラが営巣していることは4月21日の地元新聞でも取り上げられた。なかなか機会がなかったが、ようやくようすを見にいくことができた。営巣木はリュウキュウマツの枯れ木。加計呂麻島から始まった松枯れはいまやどんどん北上し、名瀬や龍郷あたりでも目立ち始めてきた。青々としたリュウキュウマツが赤茶色に変色してしまうのは景観的には台無しだが、オーストンオオアカゲラにとっては巣を作りやすい環境が増えたことになり、天の恵みかもしれない。

ヒナはまだ巣穴から顔をのぞかせる段階ではなかったが、メスとオスの親が頻繁に大きめの虫を運んでくることから、かなり大きくなっていることがわかる。ノグチゲラではオス親とメス親では運んでくる餌の種類が違うというが、オーストンオオアカゲラではどうなのだろう? とても気になるところなので、これから数日、餌運びのようすをビデオ撮影することにした。

▲オス親が甲虫の幼虫らしき餌を運んできた。
▲と、メス親も負けじとさらに大きな餌を運んできた。

*番外編*5月21日~26日 台湾

 奄美から一番近い外国、それは台湾。琉球列島との共通種も多いし、固有種・固有亜種の宝庫でもある。いつかはバードウォッチングに行ってみたいと憧れていた場所だ。念願をかなえるべく奄美野鳥の会の精鋭メンバー(?)とともに賞鳥旅行としゃれこんでみた。

 5月21日の午後、鹿児島空港から2時間のフライトで桃園空港に降り立つと、いきなりの雨。しかもかなり激しい。奄美もすでに梅雨入りしているが、事情は台湾も同じである。日本語ガイドの杜さんによると、ここ一週間ほど大雨が続いているという。不安を抱えながら、最初の目的地である谷関へ向かう。ここは日本統治時代からの古い温泉保養地で、標高は1000mを越えたくらい。台湾の固有種というと最初に思いつくヤマムスメを探すには絶好の場所だとのこと。宿に荷物を置き、夕暮れまでの短い時間を探鳥に費やす。宿の近くの電線になにやら尾の長い鳥が止まっている。双眼鏡で覗いてみると、なんとさっそくヤマムスメである。拍子抜けするほど簡単に観ることができた。どうやら近くで営巣していたらしく、巣立ったばかりと思われる尻尾の短い幼鳥がさかんに餌をねだっており、親鳥が一生懸命餌を運んでいるようだった。なるほど観やすいはずだ。翌22日の朝にもこの周辺を散策し、谷関ではヤマムスメ以外に、ズグロミゾゴイ、セグロコゲラ、ベニサンショウクイ、カヤノボリ、カワビタキ、ヤマガラ(色濃い!)、ヒメオウチュウなどを観察した。

▲雨の夕暮れ時、クワズイモの実をさかんについばむヤマムスメ。

 次なる目的地は固有種のメッカ、阿里山。まずはミカドキジの姿を拝むべく、22日の午後は標高2600mの塔塔加へ向かう。いくら台湾とはいえ、標高2600mは寒い。おまけに雨で視界は悪い。コンディションは劣悪だが、そんななかで一行の目を楽しませてくれたのは固有種のキンバネホイビイだった。高山鳥には人を恐れない種が多いが、こいつは別格。10名で観察していたところへどんどん近付いてきて、挙句われわれの間をすり抜けるようにして通り過ぎていったのだ。携帯電話の写真機能で十分に撮影できる小鳥は珍しい。さて、目当てのミカドキジだが、この日は塔塔加からの帰り道でメスを、翌23日の午前中に再び訪れた際にはオス1、メス1、幼鳥2のファミリーを、バスの中から息を殺して観ることができた。その他、塔塔加での観察鳥種はタカサゴウソやホシガラスなど。

▲携帯電話のカメラで撮影したキンバネホイビイ。ここまで人を恐れない小鳥も珍しい。

 阿里山は立ち入り規制があり、宿泊エリアへは宿の送迎車でないと入れない。われわれの宿は阿里山森林鉄道の沼平駅にほど近い場所にある阿里山閤大飯店。23日の朝、このホテルの前に出てみると、たくさんの鳥の気配がする。宿の玄関前の電線に止まっているのは日本では珍鳥のミヤマヒタキ、庭の植栽ではヤブドリやシマドリがちょろちょろしている。宿と沼平駅の間のわずか500mほどの周回コースをのんびり巡るうちに、ニイタカキクイタダキ、タカサゴマシコ、キバラシジュウカラ、ヒガラ、カンムリチメドリなどが次々と出現してくれて、忙しいことこのうえない。一周して宿に戻ってくると、阿里山名物のアリサンヒタキまでもが姿を現してくれて、小雨の中の探鳥は大満足のうちに終了となった。

▲固有種のニイタカキクイタダキもしばらくじっとポーズを決めてくれ、サービス満点。
▲宿の前の線路跡で餌を探すアリサンヒタキ。

 23日の午後は阿里山の麓のほうへ下り、観星園という民宿に泊まる。ここの近くではかなりの確率で固有種のサンケイを観ることのできるポイントがあり、ブラインドに入って、ひたすら待つ。30分ほどしてサンケイのオスが、1時間過ぎてからミヤマテッケイのファミリーが、2時間近くしてからサンケイのメスが姿を現す。聞きしに勝るサンケイのオスの美しさには、思わず息を飲んだ。夜は民宿の敷地内でタイワンコノハズクや電灯に集まる昆虫を観察。翌24日はようやく雨があがり、朝は民宿付近で鳥を探して、カザノワシ、カンムリワシ、コンヒタキ、ミミジロチメドリ、ハウチワドリ、チャバラオオルリ、ズアカエナガ、コシジロムシクイなどを観ることができた。

▲圧倒的な迫力のサンケイのオス。

 24日の午後はバスで一気に山を降り、北回帰線を越えて台南近くの官田というところへ行く。ここではレンカクが手厚く保護されているという。なるほど池に浮いた蓮の葉の上にはかなりの数のレンカクの姿が認められる。歩きながら餌を探したり、身づくろいをしたり、他の個体と喧嘩をしたり……レンカクの姿を十分に堪能した。他には、カイツブリ、ヨシゴイ、アマサギ、ムラサキサギ、バンなど。晴れたのはいいが、最高気温は35℃を越えた。長時間の鳥観はもはや無理。

▲レンカクはやはり蓮の葉の上がお似合い。

 24日の夕方に台北へ向かい、25日は終日、晴天の台北付近で探鳥。植物園ではゴシキドリ、タイワンオナガ、タイワンオオタカなどを堪能。特にゴシキドリは営巣中で、たくさんのカメラマンが集まっていた。大安公園でもゴシキドリが営巣していたが、カメラマンの数はむしろ公園の中の池のほうが多いありさまである。ゴイサギやコサギのコロニーとなっているが、まさかそれらに台北のバードウォッチャーが群れているわけでもあるまい。ガイドの杜さんに訊いてもらうと、迷鳥のオニカッコウが入っているという。今回の目的は台湾の固有種・固有亜種などの留鳥なので、迷鳥は必ずしも観たいわけではなかったが、珍鳥と言われるとバードウォッチャーの血が騒ぐ。待つこと20分ほどで、オニカッコウのメスが出てきてくれた。午後は関渡自然公園でクロツラヘラサギや外来種のアフリカクロトキを冷房の効いたビジターセンターからのんびり観察して台湾での鳥観は終了。結果、75種もの鳥に出会うことができ(外来種除く)、非常に満足度の高い賞鳥旅行だった。

▲植物園で人気の的だったゴシキドリ。
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