10月5日(日) 笠利町宇宿漁港
サトウキビ畑のスプリンクラーや電柱のいたるところにサシバが止まっている。ミーニシに乗ってこの鳥が島にやって来たということは、奄美にも本格的な秋の到来だ。サシバばかりではなくチョウゲンボウの姿も多い。夏の間はいなかった猛禽たちの数が突然増えて、わくわくする。自分だって猛禽なんだぞと、これも渡ってきたばかりのモズのメスが一羽、電線の上から獲物を狙っているのがなんとも微笑ましい。
まだ観たことのないコシャクシギでも来ていないだろうかと、宇宿の漁港を訪れた。ここにはかのシギが好みそうな草地があるので、毎年ひそかに期待しているのだ。30羽以上の鳥の群れを発見。ムナグロである。チドリ類もこういう環境が嫌いじゃないのだ。双眼鏡で群れを追っていると、中に一羽、ムナグロよりもスマートで嘴の長い鳥がいるではないか。この大きさ、この色合い……ひょうたんから駒でコシャクシギ!? 踊る心を押さえつけてフィールドスコープをセットすると……残念、エリマキシギのオスだった。ま、仕方ないかとエリマキシギをデジスコで撮影して帰宅。翌日神奈川在住のあまみちゃんからの「週末に愛知県でコシャクシギを
観てきました」というメールに、ただただほぞをかむのであった。
10月20日(月) 大和村フォレストポリス
先週まで水が抜かれていた水辺の広場の池に水が張られている。増えすぎたホテイアオイを駆除したのだろうか、池にはほとんどかの植物の姿がない。おかげで水面全体を見渡すことができて、すこぶるいい感じになっている。こういう維持管理ならば歓迎である。
向こう岸近くにカモのシルエットが見える。双眼鏡でのぞくと、カルガモ2、オナガガモ1、コガモ1。すべてメスのような羽色をしているが、この時期のカモはオスもエクリプスなので、簡単に性別はわからない。そこへ水面を横切る別の水鳥が……こちらはオオバン。冬鳥が続々と勢ぞろいしているようだ。
川を渡ってトンボ池と名づけられた小さな池へ。この前、ここでコシブトトンボを見つけたので、今回はそれを撮影するのが目的なのだ。しかしギンヤンマやシオカラトンボ、ウスバキトンボにリュウキュウベニイトトンボばかりで目指すトンボはいない。岸辺から突然赤茶色の鳥が飛び出す。リュウキュウヨシゴイである。人が近づいたのをやりすごそうとじっとしていたのに、ちっとも立ち去らないばかりかさらに近寄ってきたので、根負けして飛んだのだろう。気の毒なやつめ、と同情しながらさらに数歩進むと、再び1羽の鳥が水草の間から飛び出した。リュウキュウヨシゴイよりもずっと小さい。背中の茶色も濃く、黒い斑点があった。はて、何の鳥だろう?ヒクイナのように赤くもなかったし、シロハラクイナの白はまったく確認できなかった。もしかして、あいつだろうかと期待しながら、降りたあたりへゆっくり進む。と、その鳥がもう一度飛んだ。翼端が黒っぽく、足は黄色っぽい。間違いない、やっぱりあいつ……ヒメクイナだ。その後は草の間に隠れて姿を現さなかったので、ビデオ画像に残すことはできなかったが、ライファーの鳥は網膜にしっかり焼き付いたのであった。
10月25日(土) 龍郷町長雲峠―名瀬市小湊
ひょんなことから鹿児島から来られたチョウ好きな方をご案内することになる。そういえば最近チョウをちゃんと観ていないなあと思いつつ、秋晴れの空の下、長雲峠へ向かう。
運がいいとアカボシゴマダラを見かけるのだが、きょうはその姿を見つけることはできない。モンキアゲハ、ツマベニチョウ、アサギマダラ、イシガケチョウ、リュウキュウミスジなどが舞っている。この時期のチョウは翅が擦り切れたり、鱗粉がはがれたりしてみすぼらしいものが多い。成虫の季節はもうじき終わりなのだろうか。そんななか、ギョボクの葉の上にツマベニチョウの終齢幼虫を発見。こいつはもうすぐ蛹になるはずだが、そのまま冬を越すのだろうか、それとももう一回成虫となるつもりか? いささか中途半端な時期ではある。
標高の高いところにはあまりチョウがいないようなので、ランタナやハイビスカスの多い集落に降りてみる。いたいた。ベニモンアゲハ、ナガサキアゲハ、アオスジアゲハキチョウ、ウスキシロチョウ、ナミエシロチョウ、テングチョウ、カバマダラ、ツマグロヒョウモン、アカタテハ、リュウキュウヒメジャノメなどが次々に確認できる。ここは冬場はリュウキュウアサギマダラの小規模な集団越冬地にもなるところで、すでにその姿がちらほらと見える。
目的のチョウはもう少し小さいチョウなので、目をこらす。ヤマトシジミ、アマミウラナミシジミ、ムラサキシジミは見つかるが……いたいた、センダングサの上にとまって蜜を吸うイワカワシジミ。このチョウは後翅の端に目玉模様のある出っ張り、偽頭を持っている。これは本当の頭を捕食者から守るための自己擬態だと言われている。触覚に似せた尾状突起を微妙に動かしながら蜜を吸う様子を見れば、鳥は確かにこちらのほうを頭と勘違いするに違いないと納得してしまう。