2015年 8月のフィールドノートから

8月19日 川内川上流域

 暑い夏は渓流遊びが最高。とはいえ、泳ぐわけではない。水生昆虫探しだ。今日はアマミオヨギカタビロアメンボを確認に、川内川の上流へ。ここは水深が浅く、水遊びに最適。流れのはやい瀬にはヨシノボリの姿が。奄美の河川にはヒラヨシノボリ、クロヨシノボリ、キバラヨシノボリ、シマヨシノボリ、アヤヨシノボリなど数種のヨシノボリが生息しており、素人目にはどこがどう違うかわからない。冷たい水流を味わいながら淵へと向かう。水深2メートルほどの淀みの上に、焦げ茶色のほこりのようなものがたくさん浮かんでいる。ところがこのほこりは流されない。水流に抵抗して泳いでいるからだ。いました、アマミオヨギカタビロアメンボの集団である。成虫でも体長は2mmくらいしかない。網ですくってみても小さすぎて、老眼の進んだ目には無翅型か長翅型か判別できない。コンデジの顕微鏡モードで撮影すると、性別や翅型がようやくわかるが、驚いたことは、かなりの確率で赤っぽい微細なダニがついていること。シマアメンボでもよく赤いダニを見かけるが、こんな小さなアメンボニも。このダニ、いったいどんな生活史を送っているんだろう。 日の当たる砂地に移動して網ですくうと、体長1mmほどの小さな水虫がたくさん確認できる。アマミコチビミズムシだ。ツートンカラーの模様がかわいらしい渓流の妖精。

▲ヨシノボリの一種。誰かヨシノボリ類の識別法を教えてもらえないだろうか。
▲アマイミオヨギカタビロアメンボ。左は長翅型。右は無翅型のメスの上に無翅型のオスが乗り、さらにその上にダニが乗っている。
▲アマミコチビミズムシ。体長はわずかに1mmほど。

8月21日 住用川上流域

 19日に続いて渓流遊び。今日は住用川の上流域。ここは沢に下りる道が整備されていないため、滑らないように気をつけながら立木に捕まって急斜面を下りる。下りてすぐに清冽な水に浸かると、サンダル履きの足が歓喜の声を上げる。ピッ、ピッという声に顔をあげると、キセキレイが2羽、追いかけっこをしている。冬鳥の中では最もはやく到来する鳥だが、真夏に渡ってくるとは気が早すぎる。

 浅瀬に移動し、倒木の下を網でごそごそ探る。いました、体長2mmほどのエグリタマミズムシ。奄美大島と徳之島の固有種で1科1属1種の珍品だ。奄美の渓流を代表する水生カメムシといえよう。かつては絶滅危惧ⅠB類だったが、奄美大島では比較的どこでも観られるため絶滅危惧Ⅱ類に引き下げられた。この昆虫が住める清らかな流れが多く残されているというのは素晴らしいことだ。エグリタマミズムシと同所的に生息しているのが体長2.5mmほどのフタキボシケシゲンゴロウという渓流性のゲンゴロウ。川砂の上をこまめに動き、さかんに餌を物色している。これらの微小昆虫も肉食なので、もっと小さな動物がいるんだろうね。不思議だ。

▲エグリタマミズムシ。横から見ると、体のわりに大きな複眼と鋭い口吻が見て取れる。
▲フタキボシケシゲンゴロウは名前のとおりの黄色の斑紋が愛らしい。

8月31日 奄美市大瀬海岸

 知人から、大瀬海岸にシベリアオオハシシギが出ているとうかがい、さっそく観にいってきた。本日は月齢16.5の大潮。干潮の時間帯に行ったら遠すぎて観察できないおそれもあると考え、満潮の2時間後に着くように家を出る。途中、空港近くの農耕地の溜池に寄ってみると、数羽のセイタカシギに交じって1羽のヘラシギの姿がある。右脚に黄色がかったナンバーリングが付いているほか、右足に625と印字された赤の金属足環がついている。この個体は2014年7月19日に中国黒竜江省の七星河自然保護区で放鳥された個体で、2014年12月から奄美大島に滞在している。奄美の暑い夏をものともせずに越夏したこの個体、いつまで滞在記録を伸ばすだろうか。
 
 大瀬海岸には目論見通り満潮の2時間後に到着。潮が引きはじめ、手前から干潟が現れはじめている。ダイゼン、ムナグロ、メダイチドリ、コチドリなどのチドリ類、アオアシシギ、キアシシギ、ヒバリシギなどのシギ類が餌を求めてさかんに歩きまわっている。シベリアオオハシシギはどこだろう? 波打ち際を探すも見つからない。一瞬すでに抜けたのかと嫌な想像が頭をよぎるが、なんのことはないどのシギチよりも浜に近い場所を大股で悠々と歩いているではないか。近すぎて盲点だった。オオハシシギよりもオグロシギに似ている印象だが、嘴の太さが違う。近くに人がいようがおかまいなしに無心に餌をついばんでいた。

▲「Red625」のヘラシギ。奄美での滞在もすでに9か月の長逗留となる。
▲シベリアオオハシシギの幼鳥。実はライファーでした。
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