2007年 7月のフィールドノートから

7月7日 奄美市笠利町土盛

 昨年は土浜で多数のコアジサシが繁殖していたのに、今年はまったく居ついていない。そのかわり昨年は途中放棄した土盛で繁殖している。すでに飛べるようになった幼鳥もいるかと思えば、まだ卵もあり、繁殖はいろいろなステージが混在している。生まれたてのヒナもいて、実にかわいらしい。このヒナが無事に巣立って成鳥になるまでまだ行く手には幾多の困難があると思うが、なんとか生き抜いて欲しいものだ。

 さらに今年はこの岩礁にベニアジサシが渡来しており、すでにいくつかの卵もある。一昨年は繁殖の途中放棄、昨年はほとんど寄り付かなかったので、もし巣立てば久々の記録になる。ここは北部有数の人気海水浴場に隣接しているので、どうしても人がこの岩礁へ上陸してしまう。加えてベニアジサシがコロニーとする岩場は外洋(太平洋)のほうを向いているので、台風で巣が高波に洗い流されることもしばしば。どうしてよりによってこんなに障害の多い場所を繁殖地に選ぶのだろう?

 天災はともかく、人為的な繁殖妨害は極力なくしたいと思う。この場所で人とアジサシの共存できればステキだ。

▲生まれたてのコアジサシのヒナ。せっかく砂浜の保護色をまとっているのに、岩の上に隠れちゃ効果なしだよ。
▲岩礁のほうではベニアジサシが繁殖を開始している。今年こそ巣立ちますように。

7月23日 奄美市金作原

 13日と14日に奄美を襲った台風4号、平地の被害はそれほどでもなかったものの、森の中に入るといまだに大きな爪跡が残っている。風の通り道に面した林縁や林道の木の幹や枝が容赦なく倒されているのだ。奄美の森の木はもろい。台風ひとつでどんどん倒れていく。逆に言えば、こうやって森林の更新が行なわれているのである。

 本日はモニタリング1000の仕事で、リタートラップから台風によって落とされた枝や葉のたぐいを回収。巣箱に営巣したアカヒゲの遅い雛を確認し、歩を進めていくと、あるトラップのすぐ近くに、ヒメホソアシナガバチの巣が。アシナガバチとしては小さいけれど、刺されると痛いんだよな、こいつ。

▲生後三日目のアカヒゲの雛。まだ目が開いていない。
▲ヒメホソアシナガバチが巣作り中。触らぬ神にたたりなし。

7月26日~28日 トカラ列島

 山階鳥類研究所の海鳥調査に同行して、宝島を拠点に普段はなかなか行くことのできない無人島に上陸。貴重な体験をさせていただいた。以下、簡単に日々の記録を。

26日(木) 小宝島、小島

 前日23時出航の定期船「フェリーとしま」で宝島に到着したのが11時30分。半日に及ぶ航海の成果はアオツラカツオドリの亜成鳥とアカアシミズナギドリ。ともに小宝島近海のオオミズナギドリ集団中で観察できた。民宿で昼食をいただいたあと、小宝島の隣の無人島、小島に上陸。オオミズナギドリの巣穴をいくつか確認することができた。明治時代の古い記録以来の正式確認か?

▲フェリーとしまのあとを数分間追尾したアオツラカツオドリの亜成鳥(写真:仲村昇)

▲小島の周囲は隆起サンゴ礁による石灰岩に覆われている。
27日(金) 上ノ根島、宝島

 朝2時に宝島を出発して、上ノ根島へ。真っ暗な海の上をチャーター船で揺られること2時間半、夜明け前に島の沖合いに到着。
この島はちゃんとした鳥類の調査記録がなくまったくの未知数であったが、船上で待機している間に数羽のオオミズナギドリが島から飛び出すのが確認でき、少なくともいくらかは繁殖していることがわかり期待も膨らむ。5時過ぎに明るくなってから島へ渡る。

 島の周囲は火山岩に覆われているが、上陸早々鳥臭さが鼻につく。それもそのはず、島のいたるところにオオミズナギドリの巣穴がぼこぼこ開いている。その数は1万ではきかないだろう。琉球列島最大級のオオミズナギドリの繁殖地の新発見に、一同興奮。なにしろ、島の北側になだらかな斜面をなして広がるスゲの草原や島の上部を占めるガジュマル林の林床のみならず、火山灰質むき出しの裸地や岩石がゴロゴロの海岸付近まで巣穴があるのだから驚く。ガジュマル林では変形菌(粘菌)のムラサキホコリを発見。また、奄美にはいないツクツクボウシの鳴き声も確認。

 実り多き探索の後、10時には上ノ根島をあとにして、宝島へ。途中の航路ではオオミズナギドリやアナドリにまじってオオグンカンドリが姿を現してくれた。民宿で昼寝をしたあと、夜の宝島を探検。目当てのトカラハブにはあえなかったが、固有種のトカラヤモリはたくさん観ることができた。

▲北側から見た上ノ根島。写真左手の草地がオオミズナギドリの大繁殖地となっていた。

▲火山灰質の崩れやすい斜面にこんな風に無数のオオミズナギドリの巣穴が開いている。
▲これが変形菌のムラサキホコリと仲村さんに教えていただいた。
▲帰りの航路で出たオオグンカンドリ。普通のデジカメの画像でもかろうじてシルエットがわかる?
▲宝島固有種のタカラヤモリは口吻が黄色いのが特徴。
28日(土) 横当島

 午前中は宝島でのんびりし、午後からおもむろにチャーター船で横当島へ出かける。片道2時間強の船旅ではオオミズナギドリやアナドリという常連のほかに3羽のシロハラトウゾクカモメが出現。この海域でトウゾクカモメ類を観るのは初めてである。前途を祝してくれているようだったのだが……。

 奄美大島からもその威容を望むことができる横当島は絵に描いたような火山島。コニーデ型の美しい形の山からなる大きな島ともうひとつその半分ほどの高さの低い山からなる小さな島がひょうたんのようにくっついてできた島である。この島には漁船が接岸できないので、船から島へはシーカヤックで上陸。その後、高さ5mほどの垂直の断崖をよじのぼって、ようやく島の鞍部にたどりついた。

 過酷なのはここからで、大きな島のほうは45度くらいもありそうな急勾配がいきなり500mの高さまで立ちはだかっている。しかも、足元は火山砂や火山礫などのくずれやすい砂質なので、登るのには相当な体力を有する。全員でピークを目指してもしんどいし時間のロスもあるので、結局手分けして海鳥の巣穴や痕跡を探すことに。陸の鳥についてはいくつかの発見があったが、海鳥はみつからず。

 期待した横当であるが、海鳥層に関してはいまいち貧弱なもよう。もっとも、短時間の上陸で島の全容を把握できたとは言い切れず、オオミズナギドリやアナドリが繁殖していないとは断言できない。もう一度ゆっくり調査する必要があろう。

 横当島でもツクツクボウシの鳴き声を確認した。この種の南限記録である。

▲北側から見た横当島の全容。まるでふたつの島がつながったかのような面白い形をしている。
▲上陸地点(南側)から大きなほうの島を見上げる。高度500mまで登りつめると、垂直に落ち込んだ噴火口を覗くことができる。
▲この急斜面を登るのは正直疲れる。向こうに見えるのは上ノ根島の南側の絶壁。