2001年 5月のフィールドノートから

5月8日(火)小雨  龍郷町秋名

 GWも終わり、梅雨入り。迷鳥珍鳥のシーズンも終わったかとさほど期待せずに秋名にやってきた。最近は渡り途中の夏羽のアマサギを各地で見かける。秋名は水田地帯なので、青々とした稲の苗にアマサギの白と黄橙が映える。苗の根元付近にいる昆虫をさかんについばむ姿にしばし見とれてしまう。水田には他にダイサギ、コサギにバン。コアオアシシギとタカブシギの姿も見える。空にはサシバが1羽舞っている。ほとんどの個体がすでに北へ渡ってしまっている。こいつは随分のんびり屋だ。


 葭原からリュウキュウヨシゴイが1羽飛び出した。茶褐色の体が美しい。この鳥はこうやって飛んでいる姿を目撃することが多い。なかなかじっくり観察させてくれない、臆病な鳥だ。リュウキュウヨシゴイが出てきた葭原にはスズメが群れている。中に1羽少し大きなヤツがいる。こちらに背中を向けており、よくわからないが翼の白帯と薄色の眉斑が確認できる。ノビタキかなと思っていると飛んでしまった。飛ぶ姿はやはりスズメより大きく、ノビタキのはずはない。何だろうと思ってしばらく待っていると、その鳥が戻ってきた。正体はシマアオジのメスだった。どうせだったらきれいなオスを観たいところであるが、ホオジロの仲間があまり見られない奄美ではこれでも貴重だ。近づくとすぐに飛んでしまうので、遠くからの絵になってしまったが、一応ビデオにも記録を残す。

▲ほんの少しだけ腹が黄色いのがわかりますか? シマアオジのメス。

5月12日(土)曇り  笠利町大瀬海岸

 大学の後輩の私市くんが遊びに来たので、一緒に大瀬海岸に出かける。昨日彼を空港まで迎えに行く前にちらっとのぞいたときにキリアイやアメリカウズラシギを確認したので、それが目当てである。日本の野鳥を450種も撮影している私市くんもまだキリアイの夏羽は撮影していないということ。

 昼前に着いたが、潮は悪く引き加減。幸い天気は曇りであまり暑くないので、じっくり腰を据えて待つことにした。海岸に流れ込む前川の底が浚渫されて、さらわれた川砂が草地に投げ出されている。河口付近の底生生物に影響がないかが心配。ともあれ今日のところは、シギチも普段と変わらない様子だが、自然はどこでどう影響を受けるかわかったものではない。奄美大島随一の海鳥の渡りのポイントであるだけに、手を入れる場合はもっと慎重になって欲しいものだ。

 さて、シギチのほうは数こそ少ないものの、種類はまずまずで楽しめる。キリアイのきれいな夏羽の個体はかなり汀線に近いところまで寄ってくる。ソリハシシギも近くでせわしなく短い足を動かしている。その向こう、少し深いところではウズラシギの5羽くらいの群れ、その群れに混じらないで常に脇にポジションを占めているのがアメリカウズラシギ。胸の境界線とウズラシギほど赤茶色にならない羽色でそれとわかる。セイタカシギのカップルが悠然と歩く足の下で小さなシギがさかんに餌をとっている。ヨーロッパトウネンの夏羽! トウネンとは異なり、顔が全体的に赤くはならず頬の部分だけが色づく。背中に白いV字が出るので、むしろヒバリシギの方に似た印象だが、足色が黒であることで区別できる。

 その他、アオアシシギ、コアオアシシギ、キアシシギ、イソシギ、オバシギ、トウネン、ヒバリシギ、オオソリハシシギ(フラグ付き個体)、ダイシャクシギ、チュウシャクシギ、シロチドリ、メダイチドリ、ツバメチドリなど。次々に現れるシギチを堪能していると、この春大島北高校から古仁屋高校に転勤になったという小溝先生が鳥を観にこられた。初対面の挨拶をしていたら、なんと彼もボクや私市くんの後輩に当たることが判明。世の中狭い。

▲キリアイの夏羽は眉斑や頭側線が目立たなくなる。
▲アメリカウズラシギは縦斑が胸の辺りできっぱり切れているのが特徴。

5月23日(水)曇り  大和村フォレストポリス

 フォレストポリスのキャンプ場に営巣したオーストンオオアカゲラの様子を見に行く。ヒナはもうかなり大きくなっており、親が交代で30分おきくらいにカミキリやクワガタの幼虫らしき餌を運んでくると、大声を出して巣穴の入り口に顔をのぞかせる。もう一週間もしないうちに巣立ちであろう、この木に巣穴が掘られ始めて2ヶ月強になる。長丁場の繁殖活動ももうすぐゴール。最後まで無事に育って欲しい。

 渡り鳥の季節が終わり、留鳥の繁殖が終われば、バードウォッチングとしては夏鳥の繁殖くらいしか楽しみがなくなる。6月から8月の3ヶ月間は、ボクにとっては鳥よりも昆虫のほうが面白いシーズンとなるのだ。

 フォレストポリスの水辺の広場は、昔福元という集落があったらしく、その水田の跡が残っている。置き去りにされた水場であるが、水生昆虫にとってはこういう場所が貴重だ。何種類ものトンボが飛んでいる。ギンヤンマ、オオシオカラトンボ、アオモンイトトンボ……、目の前の杭に赤いトンボが止まった。ショウジョウトンボのように朱色ではなく、全身が口紅のような色で上品な感じ。ベニトンボだ。元々は東南アジアの種らしいが、生息域を広げている。

▲ベニトンボ。よく見ると小さな昆虫を捕食中。

 水の中をのぞく、アメンボの亜種のアマミアメンボや小さなミズムシが泳いでいる。目を凝らすとオタマジャクシの姿も見える。さっきリュウキュウカジカガエルの親を見たので、その子どもたちか。この環境でオタマジャクシがいれば、大型のゲンゴロウがいてもいいはずと探すと、いました! ヒメフチトリゲンゴロウ。網ですくってみると、メスであった。日本各地で大型ゲンゴロウは数を減らしている。南西諸島固有のこのヒメフチトリゲンゴロウもレッドデータで危急種に選ばれている。こういう良好な環境はずっと残しておいて欲しい。

▲ヒメフチトリゲンゴロウのメス。後胸腹板が黄色いのが特徴。腹部は黒。
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