2001年 7月のフィールドノートから

7月6日(金)曇 龍郷町安木屋場


 月齢14.6日の満月はあいにくのおぼろ月。水平線上に厚く張った雲の中で雷が放電している。満潮のピークをちょっと過ぎ、上がっているとすればこの時刻であろうと予想をつけて来た。今晩で今週5回目、ウミガメ探しである。

 一度は見たいと思っていたウミガメの産卵シーンであるが、去年も何度もトライしたが果たせず、今年もここまで失敗続き。昨晩上がったのだろうとか、数時間前に海に戻ったのだろうという足跡は見つかるのだが、上がっているところに出くわした試しがない。今日も無理かなとあきらめかけていると、目の前に真新しい足跡。しかも一筋。ってことは、まだ海に戻っていない!? 懐中電灯で足跡を追うと、ついにいました、アカウミガメのメス。

 母ガメはまさに産卵中であった。浜に上がる前に光を見つけると、警戒して上がってこないというが、産卵を始めたら多少は光を当てても大丈夫だと聞いた。それでも慎重に光量を絞って近づく。最初は背後に回る。穴の中に真ん丸の卵が見える。ポコン、ポコポコ。ポコン、ポコポコ。見ているうちに次々と小気味よく産み落とされる。

 十分観察して前に回る。顔が濡れている。お産の苦しみで泣いているというのは俗説で、実際は過剰に体内に取り入れた塩分を常にだらだらと排出しているだけだというが、それでもどうしても泣いているように見え、頑張れと声をかけたくなる。

 観察開始から15分程度で無事に産卵を終え、後ろ足をばたばたさせて穴を埋め始めた。無事に孵化して欲しいと心から願う。

▲背後から見たところ。光をしぼっているので見づらいが、生んだばかりの卵が見える。
▲真横から見たところ。陸に上がったアカウミガメの実に無防備なこと。

7月17日(火)晴れ 笠利町宇宿漁港、大瀬海岸


 コアジサシとシロチドリの繁殖状況を確認するために宇宿の漁港に寄ってみる。繁殖地に近づくと、シロチドリはプリップリッと警戒しながら上空に円を描いて飛び回ったり、擬傷行動を行ったりする。4つがいほどが繁殖しているようだ。今月号の『バーダー』で叶内さんが全国のシロチドリの繁殖個体についての情報を求めていらっしゃった。繁殖個体と越冬個体は別の亜種ではないかという仮説らしい。羽色の観察情報を送ることにしよう。それにしても心配なのはコアジサシの繁殖が確実には確認できないこと。そもそも姿が少ない。ときおりキリリリと上空を飛んでいる個体がいてが、外敵が繁殖地に近づいたときに見せる威嚇行動は起こさない。今年はここでは繁殖しなかったのだろうか。

 続いて大瀬海岸に回る。ちょうど干潮で、喜界島の上にすっぽりとかぶさるように積乱雲が浮かんでいる。非常に夏らしく、愉快な光景だ。干潟のところどころにコアジサシの姿がある。幼鳥らしき姿も見え、宇宿では繁殖しなかったにせよ、どこか別の場所ではちゃんと繁殖に成功したようだ。1羽ベニアジサシが混じっており、さらにその近くにもう一回り大きい白いアジサシが。双眼鏡でのぞくと目の後ろから後頭部にかけてが黒いので、一瞬エリグロアジサシかと思ったが、フィールドスコープ越しに見ると、黒い模様の感じが違う。どうやらハシブトアジサシの夏羽から冬羽に換羽中の個体のようだ。おもむろに飛び上がって、コアジサシよりも格段に力強いはばたきで周囲を巡回しだした。

▲喜界島の上に発達した積乱雲。空中に浮かぶ城のようである。

7月25日(水)晴れ 瀬戸内町赤瀬


 15日の奄美野鳥の会のアジサシ探鳥会の際に立ち寄った赤瀬に再びやってきた。高さんが無人島の夕離で県委託のレッド・データ調査を行うということだったので同行させてもらったのだ。その夕離に行く前に赤瀬に寄ったのは、前回寄ったときに気になることがあったからだった。

 赤瀬は小島というよりは大きな岩礁と呼んだほうがふさわしい。そこに300羽は越えるであろうベニアジサシが集団で営巣するコロニーを作っている。アジサシ探鳥会の際にコロニーの立派さに驚いたものだが、乱舞するベニアジサシの中に数羽、別種のアジサシの姿を観たように思ったのだ。多分…。探鳥会であまり時間がとれず、十分に確認できなかったので、今回改めて立ち寄ったわけだ。

 上陸してむせ返るようなフンの臭いに辟易しながら火山性の岩盤の急傾斜をよじ登ると、一斉にベニアジサシたちが飛び立つ。そのあたりがコロニーだ。近づいてみると、岩陰やくさむらに無造作に卵が産み落とされている。卵はたいがい一個で、地色は茶褐色から白っぽいものまでさまざま。それに黒褐色の斑点が入っている。すでにヒナが孵っている巣もあり、コアジサシやエリグロアジサシに比べて黒っぽい羽毛に覆われてたヒナがじっとしている。あまり長いことお邪魔すると親鳥の翼の陰から放り出されたヒナが衰弱するので、ざっとひとまわりしておおまかな巣立ち状況を確認して船に戻る準備をする。

 戻る前に一応、先日のアジサシがいないかどうか双眼鏡でアジサシの群れを眺めてみると、いました! ベニアジサシよりひとまわりおおきく、背面が黒っぽいアジサシが3羽。ベニアジサシよりも力強い羽ばたきで空を舞っている。双眼鏡でのぞくと、黒い頭とか過眼線の間に白い眉斑がはっきりと確認できる。やはりマミジロアジサシ。

 この時期、複数の個体がベニアジサシのコロニーの周りにいるということは、マミジロアジサシもこの地で繁殖している可能性が高いと思われる。今回の簡単な調査ではそこまでは確認できなかったが、いつか明らかにしたいものだ。

▲ベニアジサシの親鳥が心配そうにこちらをうかがっている。
▲岩礁の周りをマミジロアジサシが3羽、力強く飛んでいた。