3月15日(木)晴れ 名瀬市大浜
神奈川から来られた叶内さんご一行の話では、空港やカレッタハウスの中庭にヤツガシラがいたとのこと。2月末から3月頃、奄美大島では毎年少なからずこの鳥が通過しているようで、自分自身一年前に瀬戸内町で目撃している。ヤツガシラといえば芝生敷のグラウンドという連想で、ひょっとして来てやしないかと大浜海浜公園と小浜キャンプ場をのぞきに来た。
最初に小浜キャンプ場に行ってみる。芝生のいたるところ土が掘り起こされたような跡が見られるが、これはミミズが掘り起こした跡だが、残念ながらヤツガシラは見当たらない。ウグイスがへたくそに囀り始めているのを横目にキャンプ場を横切っていると脇に植えられたアダンの木から大きな鳥が滑り落ちた。サシバの幼鳥で、胸の模様と白い眉斑が目立つ。のんびりと木の枝で休んでいたところ、突然の人の気配に驚いたものの飛び立つのが遅れ、あわてて飛ぼうとして翼をひっかけ枝から落ちてしまった。猿も木から落ちるとは聞くが、木から落ちる鳥もいるのだ。落ちたのは目と鼻の先、距離にして5mくらい。これほど至近距離でサシバと対面するのも珍しい。向こうもバツが悪いのか、こちらと視線を合わせないようキョロキョロと周囲を見渡し、しばらくしておずおずと飛び立っていった。
3月22日(木)晴れ 龍郷町自然観察の森
オオトラツグミの一斉調査が一段落ついて、ホッとした。100名を超えるボランティアが調査に参加してくれたことは奄美の森の豊かさをアピールする上で意味が大きかったと思う。生憎調査期間中はずっと雨交じりで、しかも早朝だったので、よく晴れた今日は自然観察の森に出かけてみよう。
新緑の季節が始まり、森が美しい。頭上ではサンショウクイが、樹上ではズアカアオバトが鳴いている。ルリカケスのしわがれ声もオーストンオオアカゲラのドラミングも耳に心地よい。森全体が活気づいている。そんな中、ひときわ美しい声を響かせているのがアカヒゲだ。ぼちぼち繁殖に入ろうというのか、さかんに木の洞を覗き込んでいる。営巣場所として適当かどうかためつすがめつ確認しているのであろう。そっと近づくと、すぐ目の前に降りて、囀りはじめた。じっと観察していると、ボクの周りに円を描くように、場所を少しずつ変えては、時折警戒声を交えて、囀っている。ずっと昔、戸隠でコルリのオスにしつこく絡まれたことを思い出した。小型ツグミは縄張り意識が強い。侵入した外敵を追い払おうというつもりなのか、こうやって相手を取り囲んでさかんに動き回る。相手には悪いが、こちらとしては最もよく観察できるチャンスなのだ。
十分に観察を終え、満ち足りた気分で嘉渡への道を下る途中、ショックな出来事に遭遇した。ルリカケスが車のフロントガラスに衝突してきたのだ。左手前方の枝から飛び立ったルリカケスがどうしたことか車のほうに向かってきた。あわててブレーキを踏んだが、間に合わず、軽い音を立ててガラスにぶつかった。人身事故ならぬ鳥身事故である。急いで車を停めて駆け寄ると、一瞬パニックを起こして地面に伏せていたルリカケスは正気に返って飛び去っていった。幸い大事には至らなかったようだ。こちらからの示談の申し出も聞かないうちに視界から消えていってしまった。あやうく天然記念物を轢き殺すところだった…。
3月30日(木)晴れ 大和村フォレストポリス
オーストンオオアカゲラが営巣中という情報を得て、キャンプ場にやってきた。管理人の方に訊くと意外なほど近くの木に、あまりにも無防備にその巣穴はあった。出入り口の穴は開けてしまい、現在は奥の縦穴に取り組んでいる最中だという。なるほど耳を澄ますと、木の幹の中からコツコツとくぐもった音が聞こえる。どうやら今も巣穴の奥を掘り進んでいるようだ。
しばらく待つうちに、近くの枝にハシブトガラスが止まり、ガアガアとうるさく鳴き始めた。するとこの声に反応するかのように、オーストンオオアカゲラが穴掘りを中断し、出入り口から顔を突き出して、周囲をうかがっている。オスだ。どうにもカラスが気になって仕方がないようす。なおもカラスが鳴き続けると、オオアカゲラはたまらず巣穴から飛び出して、近くの木に取り付いた。そこでカラスが立ち去るのを見張っているようだ。
ようやくカラスがいなくなり、オオアカゲラは巣穴に戻る。するっと中に潜りこんだかと思うと、すぐに出入り口に頭を出す。嘴に木屑をくわえている。掘り進んで出た削りかすを巣の外に捨てるつもりなのだ。表に運んでは捨て、また潜っては木屑を集める。これを繰り返すこと10回程。ようやく中がきれいになったのか、再びコツコツと中を掘り進み始めたのだった。