2016年 4月のフィールドノートから

*番外編*4月17日~21日 沖縄県伊平屋島

 沖縄県の有人島で最も北に位置する伊平屋島の緯度は、ほぼ与論島と同じ。沖縄では奄美群島に最も近い島であり、また琉球弧を形成する島々の中では大陸に近い西側に位置する島でもある。この島には2015年1月に一度訪れたことがあったが、きっと渡りの時期には面白いに違いないと感じた。さっそく2015年の4月に渡り鳥の標識調査をおこなうつもりにしていたのだが、運の悪いことに直前に帯状疱疹を発症してしまい、泣く泣く断念したのだった。そして一年後の今年、名護市在住のM氏の協力を得て、リベンジの機会が回ってきた。

 17日は正午過ぎに島に着き、網場を探しつつ、鳥を探す。驚いたのは、1年3か月前に訪れたときよりも圧倒的に水田面積が広くなっていたこと。前泊集落から田名集落に至る農耕地の大半が水田になっていたのだ。その面積は奄美大島最大の水田地帯秋名よりもはるかに広く、離島においてこれだけの規模の水田は記憶がない。さぞや渡りの途中の鳥たちにはよい休憩場所になりそうだが、どうしたことかサギ類をのぞくとほとんど鳥の姿がない。どうやら渡りのピークはすでに終わっているようだった。

 島の北端、一面をビロウで覆われた田名崎に行ってみると、いきなり鳥の数が増えた。双眼鏡で確認すると、シロハラやヒヨドリが多いが、シロハラホオジロやコホオアカも交じっている。やはり渡り鳥は北へ集まるようだ。風が強いのが気になるが、この付近を網場とすることに決めた。網を張ってしばらくすると、さっそくカラアカハラがかかる。さすが離島である。しかしいかんせん風が強く、なかなか鳥が渡る気配がない。初日の調査はそれにて終了。

 18日は網場を風のあたりにくい場所に移動して、調査開始。この日はツバメやキビタキを放鳥することができた。興味深かったのは、キビタキがすべて亜種キビタキで、亜種リュウキュウキビタキが交じっていなかったこと。奄美群島では渡りの時期でも亜種キビタキを観ることはほとんどない。おそらくは大陸よりの島々を伝って渡っているのであろう。他の渡り鳥としてはウグイスの亜種チョウセンウグイスやルリビタキ、シロハラなどを放鳥した。

 19日はウグイス、ヒヨドリ、メジロが多かった。ウグイスは亜種ウグイスと亜種ダイトウウグイス(とされる亜種リュウキュウウグイス?)を放鳥した。ウグイスは越冬ないし通過個体が多かったが、ヒヨドリとメジロに関しては留鳥の亜種リュウキュウヒヨドリ、亜種リュウキュウメジロのほうが多かった。伊平屋島の春の渡りはすでに終盤戦のようで、気がつくと網場の近くの鳥の数が少なくなっていた。しかたないので、のんびりと岬付近を散策し、花やチョウの観察をおこなう。ネズミモチの花にはアサギマダラやリュウキュウアサギマダラ、シロオビアゲハがよく集まっており、シマアザミにはジャコウアゲハやベニモンアゲハの姿が目立った。

 最終20日は前日以上に鳥の数が少なかった。アカショウビンやサンコウチョウを確認し、伊平屋島はすでに夏鳥の季節となっていた。案の定、渡り鳥はほとんど網に入らない。4日間で放鳥数40羽というのは決して満足できる数字ではなかったが、渡りのピークに照準を合わせれば、もう少し多種多様な鳥が放鳥できそうな気がする。

▲一面をビロウで覆われた伊平屋島北端の田名崎。
▲初日に放鳥したカラアカハラのメス第1回夏羽。
▲ネズミモチの花から吸蜜するアサギマダラ。
▲シマアザミの花から吸蜜するジャコウアゲハ。