2004年 9月のフィールドノートから

9月7日(火) 笠利町大瀬海岸

 台風16号に続いて18号が直撃。ともに非常に強い台風で、奄美大島は暴風圏内にそれぞれまる一日以上も閉じこめられてしまった。島内各地で家屋や道路が被害を受けたが、農作物や森林への影響はそれ以上だろう。笠利町のサトウキビはものの見事に横倒しになっている。そんなキビの合間からミフウズラがひょこひょこ姿を現す。留鳥たちにとっても台風は災難だったはず。嵐が通り過ぎるのをただただ待っていたのだろうか。けなげである。

 台風一過後、南の海から珍しい鳥でも迷いこんでいないかと期待しつつ笠利の農耕地や大瀬海岸などを観て回る。農耕地にはアカモズ(亜種シマアカモズ)やツメナガセキレイ(亜種マミジロツメナガセキレイ)が多い。秋の渡りでも早めに通過していく鳥たちである。干潟にはキアシシギとアオアシシギの姿が目立つが、その他にもシギチがちらほら。一番手前で妙に白っぽいシギがちょこちょこ歩いているなと思うと、奄美では比較的珍しいミユビシギだった。

▲ミユビシギが干潟でエサを物色中。

9月20日(月) 名瀬市朝戸峠

 今年はアカハラダカの渡りが遅い。例年ならば連日渡るタカが観察されるはずなのに、今年は先週末くらいからちょろちょろっと小群が見られるだけである。物足りない。それでも今朝は今年最高、300羽弱のアカハラダカを観ることができた。これから数千、数万の渡りが観られることを期待したい。

 毎朝のアカハラダカの観察時にはかすみ網を張って定点調査している。たった1枚、2時間だけなのに、そこそこ鳥が捕まって面白い。上空だけではなく、森の中を伝って南下している鳥たちもいるってことだろう。今朝はエゾビタキ、サンコウチョウ、キビタキが捕獲できた。いつものように足環をつけて放鳥。

9月28日(火) 住用村某林道

 中秋の名月というのに台風21号である。今年は本当に台風が多い。台風のたびに大量の樹木が強風で倒されるのだが、奄美の森はそうやって遷移していくのだろう。幾千年も幾万年も続いた大地の営みなのである。さて、台風であることはよく理解しているが、もしや流れる雲の合間から満月が顔を覗かせないかと、久しぶりに夜の森に入る。およそ2ヶ月ぶりである。なぜこれほど長い間夜の森を敬遠していたかというと、夏の間は観光客(観光業者)や虫屋さんが多く、ただでさえ自然に負荷をかけているのに、自分まで加担するのが嫌になったからだ。でも、さすがに台風の日は少なかろうと、きょうは解禁日にしたのだ。どっちにしたって自分の都合、勝手な言い分にすぎないことも重々承知。

 名月に浮かれ出るクロウサギはいないかと車を走らせるが、いない。名月を楽しむアマミヤマシギはいないかと探してみるが、あまりいない。月とこれらの陸棲動物の行動の相関関係はどうなっているのだろう。昔から気になってはいるが、放ったままのテーマである。海に依存した動物の行動が大潮と相関しているのはわかりやすい例で、今晩もアカテガニがたくさん山から下りてきている。ひき潰さないように運転するのがひと苦労なほど。カニに注意を払っていると、石の上に美しいカエルが! イシカワガエルかなと思うと、イシカワと同じようなペインティング(緑地に褐色の斑点)のアマミハナサキガエルだった。すっくと姿勢よく空を眺めている。つられて仰ぎ見ると、厚く垂れこめた雲の向こうに薄ぼんやりと丸い月照が見えた。ラッキー!

▲アマミハナサキガエルのイシカワタイプ(と勝手に命名)。
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