10月7日(日)晴 中央林道
名瀬市内の小学校は今日が運動会。大勢の人出で賑わう小宿小学校の脇を通って中央林道にあがる。ゆっくりと中央林道を走って昆虫観察をするつもりだ。金作原を通り過ぎて、川内川の橋にかかる。まずはここで降りて水辺の観察。長靴を履いて川の中に入っていく。リュウキュウハグロトンボが群れ飛び、クロセセリがヘゴの葉裏で休んでいる。しばらく歩くと淀みにかかる。シマアメンボが高速で泳いでいるのを尻目に水面を舐めるように探す。いた、アマミナガレカタビロアメンボ、体長わずか2ミリ程度の微小昆虫だ。元気に泳いでいるのを確認して車に戻る。
車を走らせる。ところどころ道が荒れている。時折現れるチョウの姿。ナガサキアゲハ、ツマベニチョウ、イシガケチョウ、リュウキュウアサギマダラ、ルリタテハ、ヒメアカタテハ、リュウキュウヒメジャノメ……。中でもこの時期多いのがモンキアゲハとツマムラサキマダラ。特にツマムラの数の多さにはびっくりする。最近の図鑑でもまだ「迷蝶」扱いされているこの蝶の進出の勢いは凄い。時期によっては最も数の多いマダラチョウといえる。一方で数を減らしているチョウもあり、昆虫世界の栄枯盛衰の一端を見る思い。
きょらむん橋を越えて神屋に入る。ところどころにアマミノクロウサギの糞が落ちている。一応車から降りて糞の山をひっくり返してみる。何にもいない。かつて中央林道上のアマミノクロウサギの糞からアマミヒメケブカマグソコガネという糞虫が記録されていると聞いた。タイプ標本の2頭しか現存しない超がつくほど珍品の昆虫である。見つければ快挙に違いないが、やはりそう簡単にいくはずがない。
オオシマゼミとクロイワワツクツクの声を聞きながら、車を進める。車がススキをはらうと、マダラコオロギやササキリ、たまにはタイワンクツワムシがフロントガラスやボンネットにくっついてくる。実はボクはこのコオロギやキリギリスの仲間があまり好きではない(最も苦手なのがカマドウマやコロギス)。見ていると肌がぞわぞわしてくるのだ。ムカデよりもゲジよりもクモよりも苦手なこいつらに限って車に同乗してくるのはどうしてかなあ?
そうこうするうちに林道出口に着いた。今日は赤土線で帰ろうと少し進んだところに、アマクサギの花がまだ残っているのを見つけた。花ではモンキアゲハが蜜を吸っている。ふと足元の側溝をのぞくと死にかけのカラスアゲハの姿。生命の最後の煌めき。南無三。
10月14日(日)晴 古見方
秋名の探鳥会の後、有志が集まってミミズ採集を行うことにした。冬行う予定のアマミヤマシギ捕獲作戦へ向けて、エサとなるミミズをいまのうちから養殖しておこうというハラだ。古見方で畑作をされている農家の方の好意により、堆肥の下のミミズを分けていただくことになった。山と積まれた堆肥を取り除いてみると、下からミミズやコガネムシの幼虫がどんどん出てくる。拍子抜けするほど簡単にミミズは集まった。そのとき森田さんが堆肥中から巨大なイモ虫を掘り出した。コガネムシの幼虫よりはるかに大きく、体長は7センチほどもある。
奄美大島には通常のカブトムシはいないようなので、おそらくタイワンカブトムシの幼虫だろうということになった。タイワンカブトムシはカブトムシのように二股に分かれた角ではなく、短めの一本角を持つため別名サイカブトと呼ばれ、成虫はサトウキビを食い荒らす害虫である。こいつはいくらなんでもアマミヤマシギのエサには大きすぎるので、5頭ほど持ち帰り育ててみることにした。さて、来年の夏、無事に成虫に育つことやら?
10月31日(水)晴 篠川
自然や生き物に魅せられて奄美を訪れる人は多い。バードウォッチャーに昆虫採集家、ダイバーや大物狙いの釣師、さらには植物愛好家。しかし魚捕りが目的という人は少ないのではないだろうか。今回奄美へいらっしゃった荒俣さんと佐藤さんの趣味は観賞用小魚の捕獲と飼育。大きな魚や美味そうな魚には見向きもせずに小魚を追いかける。確かにそれらの魚は色が美しかったり形が不思議だったりして見ているとなごむ。それにしてもわざわざこんな魚を捕まえに東京から……と感心。なにしろ熱帯魚屋さんでも扱わないような商品価値の低い小魚なので、自分たちで捕まえる以外に飼いようがないのだとか。本当に好きじゃなければできません。
昨日は北部を回ってそこそこの成果が出たので、今日は南方面を回るとのこと。同行させてもらうことにした。目指す場所は篠川と聞いて、白浜のサンゴ礁のあたりかと思いきや篠川湾のちょっと先が目的地だった。到着するなりウェットスーツに着替え、特製の網を持ってさっさと海に潜るふたり。こんな普通の海に面白い魚がいるんだろうかとぷかぷか浮かんだふたりを尻目に渚を歩いていると、小さなムシが海面を泳いでいるではないか。ウミアメンボの一種だ。さっそく金魚網ですくう。
にんまりしていると、ふたりが海からあがってきた。浅くて濁った海なのに、海中は魚が豊富なようで、何種類かの小魚を捕まえており、ケースに入れて誇らしげに見せてくれた。お返しにウミアメンボを見せてあげたが、ふたりにはぴんとこないようであった。ひょっとしたら、一番マニアックなのは……?