2004年 3月のフィールドノートから

3月16日(火) 晴れ 龍郷町自然観察の森

 奄美自然観察の森は留鳥たちの繁殖ラッシュ。すでに子育ても終盤に入ったルリカケスは地面に降りて餌を探している。その傍らではアマミヤマガラがシイの樹洞内の巣で待つヒナたちのために、忙しく餌集め中。ときおり、アカヒゲのオスが美声を響かせると、メスがすぐ近くに近づいている。オスの求婚が実って、見事ペアの成立だろうか。

 頭上からこつこつと音がするので見てみると、シイの木の高さ五メートルくらいの場所でオーストンオオアカゲラのオスが巣穴を掘っている最中だった。巣穴は体の2/3くらいが隠れる程度の深さに達しているようで、上半身を穴につっこんではこつこつと木の内部を削り、木屑を外に放り捨てる。とても作業しづらさそうな体勢であるが、巣づくりはこれからが佳境なのだろう。近くでキョッと声がした。作業交替の時間がきたのだ。オスが休憩のために飛び去ると、メスが巣穴掘りを引き継いだ。

▲デジカメの3倍ズームで写せる距離でオーストンオオアカゲラのオスが奮闘中。

3月17日(水) 曇り 住用村某林道

 アマミヤマシギの全島調査のため、奄美野鳥の会のメンバーで分担して島内の主要な林道を踏破することになった。本日は夜通しかけて住用から瀬戸内の林道を回ることに。昨年はたくさんのアマミヤマシギが出現した場所なのだが、今年はなぜか数が少ない。だからといって、それだけで生息数が減ったともいいきれない。アマミヤマシギの生態や行動はまだ不明な点も多い。研究は緒についたばかりだ。

 今晩はことのほか両生・爬虫類が多い。アマミアオガエルとヒメアマガエルとリュウキュウカジカガエルがひとつの池でコーラスを聞かせてくれたり、イシカワガエルの声が渓流に響き渡るそばの水溜りにリュウキュウアカガエルが浮かび、それをヒメハブが狙っていたり、冬ごもりからさめたオットンガエルがのろのろと道を横切ったり……。道の真ん中で鎌首をもたげた細身のヘビを発見。ガラスヒバァである。カメラを向けると、威嚇してきた。ガラスヒバァはナミヘビ科であるがヤマカガシと同様、デュベルノイ腺に出血毒を持っている。小さいけれど、毒蛇の貫禄十分。

▲鎌首をもたげてこちらの様子をうかがうガラスヒバァ

3月26日(金) 雨 宇検村某林道

 アマミヤマシギの全島調査が続いている。きょうは雨のため鳥よりもカエル日和。この季節、アマミアオガエルがクリリリリと美しく鳴くのにかぶせて、ヒメアマガエルのカタカタカタという乾いた鳴き声、リュウキュウカジカガエルのリュリュリュリュリュという声も聞こえてきて、なかなか楽しい。さらにハロウェルアマガエルの声やイシカワガエルの声を聞くことができる。そればかりではない、林道上には大量のオットンガエルやアマミハナサキガエルの姿が!季節的にはもう終わりに近いリュウキュウアカガエルも見かけたので、カエルだけで8種類が確認できる。

 カエルが多いということは、それを狙うヘビも多い。ヒメハブやガラスヒバァが次々に出現。と、前方にとっても小さなヘビを発見。細いのでガラスヒバァの幼蛇かと思って近づいてみてびっくり。アマミタカチホではないか。謎の多いこのヘビは、たしかミミズを主食にしていると思ったが、こんな雨の日に徘徊して、どうしたことだろう。

▲非常に細く小型のアマミタカチホ。黄色味を帯びた腹板が特徴。