2002年 8月のフィールドノートから

8月7日(水)晴れ 名瀬市大川ダム

 名瀬市農林課の発案で大川ダム下の空き地がビオトープとして活用されることなり、その件について野鳥の会のメンバーに意見を聞きたいということで、高さん、川口和範さん、川口秀美さんとともに視察に行った。行ってみて驚いたのは、基本工事がすでにほとんど完了してしまっていたことで、いまからでは意見を述べたとしても、反映できないではないかとがっかりしてしまった。とはいえ、ビオトープ第一号の造成は歓迎すべきことであるし、奄美野鳥の会が意見を求められたことも嬉しいことではあった。これが奄美の人間と自然との共生を考えるためのひとつのきっかけにでもなればとよいのだがと思う。

 人間がどうこう言おうと自然の力は逞しい。できたばかりでまだ赤土に覆われたビオトープはまだまだ住み心地がよいとは思えないのだが、すでに数種のトンボや水生昆虫、オタマジャクシなどの姿を確認することができた。放っておけば数ヶ月で立派な環境になるのかもしれない。

▲さっそくビオトープに来たヒメトンボ。トンボ科の中ではコシブトトンボに次ぐ小さなトンボだ。

8月10日(土)~11日(日)晴れ 瀬戸内町ハンミャ島

 奄美野鳥の会恒例の夏の無人島キャンプ。ボク自身は2回目のハンミャ島訪問となる。天気に恵まれた10日の朝、海上タクシーを借り切って島に渡る。この日は気温が高く、遮るものが何もない白砂の浜は触れた足裏が焼けそうなくらい暑い。これだけ暑いと何もやる気が起こらず、タープの下の日陰でごろごろと昼寝をして過ごす。今年はアジサシ類が全般に不調だが、去年はこの地で営巣していたエリグロアジサシの姿も見当たらず、ときおり見かける鳥影はといえばミサゴにメジロにハシブトガラス。自然と双眼鏡をのぞく気力も失せ、ただただ夕飯のバーベキューとビールが待ち遠しい。そんなボクの怠惰なていたらくを横目に、ラウケンさんはさっき丘に登っていたかと思うと、次に見たときには海で泳ぎ、いまはまた双眼鏡を持ってどこぞへ散歩に出かけている。オランダ人とはみなあんなに活動的なのかとどうでもいいことを考えていたら、くだんのラウケンさんが戻ってきて、frigate birdを観たという。「え、グンカンドリ?」ボクは思わず飛び起きる。グンカンドリといえば、迷鳥のなかでも人気の高い南洋の海鳥である。「台風でもないのに、本当にグンカンドリが……?」と半信半疑でいたら、上空高くを悠然と飛ぶ大型の鳥が! 間違いない、あの鋭角曲がった翼と深い燕尾はグンカンドリだ! 一瞬だったのでオオグンカンかコグンカンかまでは識別できなかったが、こんなところでグンカンドリを拝めるとは眼福、眼福。夕飯のバーベキューとビールがますますおいしくなったのであった。

 飲み過ぎて浜辺でうつらうつらしていたら無理矢理起こされた。そうだ、22時半からオオミズナギドリの営巣地に行ってみる約束だったのだ。すでに暗い夜空を舞うオオミズナギドリの声が聞こえる。あわてて懐中電灯を持ち、斜面を登ってオオミズナギドリの巣穴に向かう。アジサシがダメなので心配していたが、どうやらオオミズナギドリにはあまり影響がなかったようで、たくさんの個体が斜面をよちよち登っている。地面から直接飛ぶことのできない彼らはこうして見晴らしのよい「踏み切り台」まで登り、そこから勢いよく飛び出すのだ。今宵も順番待ちのオオミズナギドリたちが「踏み切り台」の岩の手前で行儀よく列をなして並んでいた。

▲「踏み切り岩」の前で順番待ちのオオミズナギドリ