2002年 9月のフィールドノートから

9月1日(日)曇り 笠利町節田

 最近奄美大島でもベニモンアゲハが定着し始めた。もともと南方系のチョウであるが、ツマムラサキマダラやアオタテハモドキと同様、分布を北へと広げている種のひとつだ。幼虫の食草であるウマノスズクサが多い節田ではよく見かけると聞いたので、観にやってきた。

 集落内ではモンキアゲハやクロアゲハはみつかるものの、なかなかベニモンアゲハは見当たらない。どこだろうと耕作地を進むうちに、行き止まりの踏み分け道に迷い込んでしまった。道端に咲くセンダングサではアカタテハやカバマダラが吸蜜している。その向こうにひらひらと舞う黒いチョウが! これぞ、奄美では初めて観るベニモンアゲハの姿であった。腹部の紅色がいかにも毒々しいが、これはジャコウアゲハ同様、食べてもまずいだけよと捕食者に警告しているのだ。毒を持たないシロオビアゲハのメスには、この毒蝶ベニモンアゲハに擬態したベニモン型というタイプが存在する。奄美大島ではさほど多くないシロオビアゲハであるが、ベニモンアゲハの定着が進むにつれて、ベニモン型のメスが増えるのであろうか? 興味深い課題である。

▲腹部の紅色がよく目立つベニモンアゲハのメス。

9月15日(日)晴れ 名瀬市朝戸峠

 秋空の一大ページェント、天高く鷹の渡る秋がやってきた。

 きょうは奄美野鳥の会主催のアカハラダカ探鳥会。数日前からここでアカハラダカの渡りを観察されている岩元さんの話では徐々に渡りの数が増えてきているとのこと。今朝は晴天無風で絶好のタカ日和である。

 7時半から観察開始。上昇気流がたちのぼらないのか、最初はなかなかタカがあがってこない。8時を過ぎる頃から、あちらで15こちらで30という具合に、ぽつぽつと小さな群れができはじめた。タカの渡りは最初1、2羽のタカが低い高度で旋回すると、それにつられたように付近の森で休んでいたタカたちが次々と合流し、ある程度の数の群れを作って一気に南のほうに滑空していく。さあ同志よ渡ろうじゃないかと、先導役のタカが誘いをかけるように低空飛行を繰り返すが、あまり支持を集められないらしく、今朝は大きな群れができない。仕方なしに小群で渡っていく。9時近くなり、風向きなどがよくないのか、それとも昨日大群が渡った後なのかといろいろ考え始めた頃、ようやく50羽クラスの群れ、100羽クラスの群れが現れ始めた。昨夜の気温が低く上昇気流が起きるまでのウォームアップに時間がかかったのかもしれない。

 そして、9時過ぎに本日のメインイベントが開幕。100羽クラスの群れがはるか遠くで旋回を繰り返している。しかしあまりに遠いため、群れは薄雲に溶けたように見えなくなってしまった。10分後、見失った群れがいきなり近くに出現。群れも大きくなっており正確には数えられないが200羽はいそうだ。この群れを見つけた他の小群がおれたちも混ぜろと言わんばかりに次々合流する。群れは大きくなりつつ高く高く舞い上がる。250羽くらいにはなったときだろうか、それまで旋回を続けていたアカハラダカたちが一斉に南を目指し、われわれの頭上をすーっと流れていった。

 タカが渡れば、奄美はもう秋である。

▲アカハラダカの蚊柱ならぬ鷹柱。

9月28日(土)晴れ 瀬戸内町高知山

 秋の渡りが本格化している。そこで渡り鳥に足環をつけようと考え、バンディングを行った。場所は瀬戸内町の高知山展望台。一年前にキタヤナギムシクイを捕獲した同じ場所で、二匹目のドジョウを狙ったのである。

 28日は朝からアカハラダカが舞う晴天。網場のすぐそばの園地ではエゾビタキが2羽、さかんに餌を探しているし、電線にはアカマシコ(幼鳥またはメスタイプ)が一瞬姿を現す。いい感じである。駐車場脇にしつらえられた東屋で雑談をしたり、うたたね寝をしたりしながら鳥がかかるのを待つ。結局この日の成果はジジュウカラ、ヤマガラ、メジロにキジバトが各1羽。

▲植栽のヒカンザクラの枝に止まり餌を探すエゾビタキ(写真提供:川口和範さん)