*番外編*冬の北海道
2月8日(木) 東大雪
十勝三又にお住まいの田中さんから毎年2月にはギンザンマシコが群れでエゾマツ、トドマツの実を食べにくると聞いたのが一昨年の12月。昨シーズンは北海道まで足を伸ばすことができなかったが、この冬こそはと張り切ってやってきた。冬の北海道にはさまざまな思い出がある。厳冬期の知床の夜、粘りに粘って待望の初邂逅を果たしたシマフクロウ、霧多布で何時間もも待って見つけたニシコクマルガラス、駅からの雪道を砂原岬までスノーシューで歩いた末にようやく目撃できたシロハヤブサの黒色型、大晦日の風吹きすさぶ納沙布岬で歯舞諸島を背景に観たコケワタガモ……。これまでに冬季の北海道を10回以上訪れているが、そのたびに素晴らしい鳥との出合いがあった。今回はギンザンマシコがその主役……と想定してきてみたはいいが、記録破りの暖冬のせいでまだギンザンマシコは1羽も来ていないという不運。がっくりである。ある年は初夏の大雪山で振られ、別の年は夏の利尻岳でまた振られ、ようやくまた別の年に秋の羅臼岳で観るには観たのだが、それも一瞬だけ。ギンザンマシコとの相性ははなはだよろしくない。でも、今回観られなかったということは、次の機会を作ればよいということであるから、さほど落胆はない。また来る口実ができた。
田中さんによると、近くの温泉でクマゲラがよく観られているとのこと。さっそく気持ちを切り替えて、それを探すことに。車から降りてどこかと探していると、親切な宿の方がその木を教えてくれた。双眼鏡でのぞくと、いたいた。かなり遠いが、大きなキツツキなのでよくわかる。頭の赤色部が小さいので雌のようだ。一心不乱に木の幹をつついている。近くの木にはカケスの亜種ミヤマカケスやハシブトガラの姿も。改めて北海道だな、と実感する。暖冬とはいえ、奄美に移住して7年の身には久しぶりの北海道の冬は堪える。見かねたのか宿の方が温泉に入っていけと勧めてくれたので、お呼ばれすることに。芯まで冷えた身体に温泉の湯が沁み渡る……幸せ! 風呂から上がるとまた宿の方が窓を指差すので、眼を向けると、なんとエゾクロテンの顔がある。山間の一軒宿であるこの建物から出るゴミを狙って、ときどき現れるそうだ。真昼間からゴミ漁りに来たということは、よほどお腹が空いていたのだろうか。ともあれエゾクロテンをはじめて観られて、ラッキーである。
次回はこの宿をベースにして、バードウォッチャー憧れのミユビゲラとキンメフクロウでも探すとするか。
2月9日(金) 風蓮湖
弟子屈在住の先輩と一緒に風蓮湖へ。風蓮湖はふたつの砂州で海から隔てられた汽水湖である。南側の砂州がバードウォッチャーにはなじみ深い春国岱。ここも冬季スノーシューでユキホオジロなどを観察しながら先端まで踏破したことがある。北側の砂州の先端付近にある最果ての集落走古丹へは、やはり冬に世界一美しいカモといわれるヒメハジロを探しにきたことがある。今回の目的はいわゆる「鷲のなる木」。湖畔の木にオジロワシやオオワシがたくさん止まっているらしいと聞いたので、それを観にきたのだ。
湖畔に車を止める。湖面は一面が凍結。スノーモービルが走っているのはわかるが、なかには軽トラックの姿も。どれだけ分厚い氷なのだろう。これらの人々は遊んでいるのではなく、漁をしているのだ。氷に穴を開けて網を張る氷下待ち網漁。コマイやニシンが獲れるそうだ。さて、湖岸の樹木を見渡すと、いるいる、ワシたちが群れで止まっている。漁のこぼれものを狙っているのだ。商品価値の低いギンポなどの魚は漁師が氷の上に捨てていくので、それがワシたちのご馳走となるわけだ。自然界のリサイクルシステムといえよう。
2月19日(月) 龍郷町秋名
昨年の12月から秋名ではタヒバリに混じってマキバタヒバリとミズタヒバリが観られている。どちらもそう簡単にはお目にかかれない珍鳥なので、島外からも熱心なウォッチャーがお越しになっている。先週は写真家の真木さんがいらっしゃっていたし、今日からはビデオで有名な佐藤さん、知り合いの熱狂的なバーダー土方さんがご来島である。土方さんへの挨拶がてら秋名へ行くと、水を抜いた水田の中に比較的大きな鳥がいる。ケリである。関西以東で局所的に繁殖しているこの大型のチドリは九州や南西諸島では稀に観察できるだけの数少ない冬鳥である。思わぬ出合いににっこり。
そうこうしていると土方さんがお見えになり、さっそく鳥の話で盛り上がる。どこそこでセアカモズが出ただのキガシラシトドを観たなどと、うらやましい珍鳥情報話をうかがう。昔だったらさぞかし観にいきたい気持ちが募ったに違いないが、奄美に移住してからはその手の情報にはあまり心が動かされなくなった。観たことのない鳥をひと目観たいという気持ちは変わらないが、島から抜け出すのが億劫だし、また島にいればそれなりに珍しい鳥がやってきてくれるからというのが、ひとつの理由。もうひとつの理由は、がむしゃらに珍鳥を追い回すよりも特定の鳥とじっくり向き合いたいという心境になってきたから。いまのマイブームはアマミヤマシギとウグイス。標識調査などを通じて、これらの鳥の生態を少しでも解明することが一番の楽しみである。