2009年 3月のフィールドノートから

3月11日 奄美市某所

 久々に沢歩きを行う。早春の森は新緑が美しく、林床には蝋細工のようなギンリョウソウや可憐なアマミエビネの姿がある。さほど暑くもなく山歩きには最適のシーズンだ。斜面を降りて、ある沢に到着。そこから冬虫夏草や小動物を探しながら、沢沿いを歩いていく。シイの根元にはカンゾウタケがはっと驚くような真紅の色を見せている。名前のとおり肝臓のような外観で、裂くとご丁寧に血のような赤い血のような液体が染み出てくる。毒々しい色の割には食用にもなるキノコで、欧米では「貧者のステーキ」とか「牛の舌」と呼ばれて珍重されている。日本ではあまり食べないみたいだが、塩コショウを振ってソテーすると、牛タンのようでgood。

 石をひっくり返したら、ちょっとおどろおどろしいクモが出てきた。オオクロケブカジョウゴグモのオスである。メスは体長35センチにもなる日本最大の地中性のクモだ。日本にはジョウゴグモは2種類しかいないが、オーストラリアに生息する種などは大型で猛毒を持ち、人を死に至らしめることもあるという。そんなおどろおどろしいクモも原生的な環境にしかいない貴重な生き物なのである。ネットオークションなどで売買されているのが心配。

追記:知り合いからこのクモはオオクロケブカジョウゴグモではなくアマミジョウゴグモだと教えてもらいました。2種類しかいないと思っていたジョウゴグモ、最新の図鑑によると他にも記載があるようです。慎んで訂正いたします。

▲腐生植物のギンリョウソウの花のアップ。青灰色の部分がめしべ。
▲見た目が肝臓そっくりのカンゾウタケ。思いのほか淡白な味。
▲アマミジョウゴグモのオス。石の下に管状の住居を作る。

3月19日 奄美市三太郎峠

 夜間のアマミヤマシギ調査の際に、未舗装道路上の水溜りでシリケンイモリとイボイモリを同時に見た。このような水溜りにはリュウキュウアカガエルなどが産卵するので、そのオタマジャクシを狙ってシリケンイモリが集まってくる。そこまでは普通の光景なのだが、「生きている化石」のイボイモリが水溜りに来るのはあまり見たことがない。なんてったってイボイモリの成体は昆虫やミミズが好物で、両生類にもかかわらず、ほとんど水の中に入らないのだから。水を必要とするのは幼生である。もしかしたらこのイボイモリ、産卵場所を探しているのかなあ。透明な真珠のようなイボイモリの卵、一度見てみたいもののひとつである。水辺近くの落ち葉の下などに産卵するらしいのだが、未見なのだ。

▲水溜りに来たイボイモリ。肋骨が張り出し、四肢の裏が赤い。

3月27日 奄美市古見方

 奄美野鳥の会の年間最大のイベント、オオトラツグミのさえずり一斉調査も無事に終了し、まだ補足調査やアマミヤマシギの全島調査は残っているものの、とりあえずほっとひと息。すでに春の渡りが始まっているので、なにか入っていないかと古見方の農耕地を訪れる。山裾からキョロン、キョロンのさえずりが聞こえる。アカハラである。オオトラツグミよりも声量が鳴く、抑揚が乏しいが、慣れない人が聞けばオオトラツグミと間違えてしまうかもしれない。この時期、渡り途中のアカハラが随所で鳴いている。声で聞き取る調査では、両種を間違えないよう注意が必要だと改めて感じる。

 電線に4羽の鳥影を発見。ギンムクドリである。オス1羽にメス3羽。かつては珍鳥だったギンムクドリも随分目撃例が増えてきた。カメラを向けると。すぐに飛び去っていく。と、今度はずんぐりした鳥が2羽同じ電線にあがった。ヒレンジャクである。シリリリとか細く鳴いている。見ると、農地の生垣として植えられたカポックの実をあと3羽がついばんでおり、全部で5羽。こいつは人怖じせず、なんとかカメラに収めることができた。

▲電線に止まるヒレンジャク。尾羽の先端が名前のとおりに緋色。
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