2009年 7月のフィールドノートから

7月7日 龍郷町某林道

 マングース防除事業の成果か、このところ龍郷町でもアマミノクロウサギの目撃情報が増えている。龍郷町といえば、全域が今回の日食の皆既帯に入る。皆既日食の時間中、夜行性のクロウサギがもしかしたらなんらかの異常行動を示すかもしれない。それがきちんと記録できれば、奄美ならではのインパクトのある新知見となるだろう。そういう思惑で、調査を開始。クロウサギの通り道となりそうな場所に赤外線センサー付きの自動カメラをしかけまくる。本当は巣穴を見つけてその前のカメラを置くのがベストなのだが、巣穴なんてそう簡単にみつかるものではない。ウサギ道にカメラを置くのは次善の手段だ。

 クロウサギの糞や食痕、通った跡などを丹念に探す。しばらく歩くと連れの調査員がさっそくウサギ道らしき跡を発見。視線を落としてよく見てみると、傍らにユウレイランが咲いている。トカラ以南に分布する腐生ランで、環境省のレッドリストでは準絶滅危惧種に指定してある。個体数はあまり多くないと言われるランとこんなところにひょっこり出くわすのが嬉しい。

 さらに歩くとリュウキュウアオヘビが道路に横たわっている。近づいても逃げようとせず、カメラを向けるとレンズに興味を示して近づいてくる。秒速40コマで正面顔を激写。舌の上下動の動きがよくわかる。どうやらひと往復に0.1秒ほど掛かっているようだ。1秒間に10回ペロペロやってるわけか。そうやってにおいを嗅いでいるわけだ。

▲ひっそりと咲くユウレイランの花。

▲リュウキュウアオヘビの正面顔のアップ。毎秒10往復の割合で舌の上下運動を行い空気中のにおいを嗅いでいる。

7月9日 奄美市笠利町土盛海岸

 ここは奄美大島北部を代表するアジサシの観察ポイントである。コアジサシが毎年繁殖し、年によってはベニアジサシトエリグロアジサシも繁殖する。アジサシが多い年には、マミジロアジサシ、ヒメクロアジサシ、シロアジサシなどが混じることもある。今年はすでに6月18日におよそ20巣のコアジサシの繁殖を確認している。果たしてベニやエリグロは来てくれるだろうか。今年は4年に一度のアジサシのモニ1000の年なので、できたらたくさんカウントしたいのだが、そう思ってやってきて驚いた。アジサシの姿がまったく見えないのである。気まぐれなベニがいないのはわかならいでもない。しかし、子育て中であるはずのコアジの姿さえも見えない。5日にはヒナも確認していたのに……。状況を調べるために岩礁に上がってみると、そこらに放棄された卵がたくさん転がっているではないか……。カラスの捕食ではない。だとすると考えられる要因はヒト! 22日の皆既日食の観測地として、北部のこの辺りは絶好のポイントとされている。そのためか、まだ2週間も前だというのに、観光客の姿が多い。おそらくはそんな観光客がこの岩礁に居座ったために、コアジサシは繁殖途中でヒナや卵を放棄してしまったのだろう……悲しい。悲しすぎる。ヒトと鳥の共存はできないのか?

▲親鳥から見捨てられ放置されたコアジサシの卵。冷たくなったこの卵が孵ることはもうない。

7月18日 奄美市住用町某所

 今年の夏は上述の皆既日食調査やアジサシ類のモニ1000などが入り、妙に忙しい。そんな中、アマミヤマシギの保護増殖事業の調査は例年通りちゃんと進行しているわけで、調査三昧である。暑い中の調査は正直バテるが、疲れを吹き飛ばしてくれるのが、調査中に出合う生き物たちである。この夜はアマミヤマシギの捕獲調査中にケナガネズミが出現し、ゆっくりと目を楽しませてくれた。あの重そうな体で電線をうまく渡ることができるのだから恐れ入るが、人に注目されているのがわかったのか、木の枝先に飛び移ってしまった。

▲電線から梢に飛び移る瞬間のケナガネズミ。背中の毛が名前通り長いのがよくわかる。

7月21日 大和村マテリアの滝

 明日の皆既日食を観測しようと、我が家には6人の客人が押し寄せ、合宿所状態。暑い夏に大の大人が7人も狭い我が家で寝たら熱死しそうなので、20日の夜はフォレストポリスのバンガローで一泊し、バーベキュー&ビールで英気を養う。島の北部は日食マニアやレイバー、さらには一般観光客など普段観たこともないほどの人出で賑わっているが、中南部、しかも森の中まではその喧騒も届いてこない。これが奄美のよいところかなあ。

 翌日は客人たちがマテリアの滝壺で泳ぎたいと言うので勝手に遊ばせ、私はその間、アマミルリモントンボの撮影。すらっと細長い、エレガントなトンボである。イトトンボよりも大きなモノサシトンボの仲間。

▲アマミルリモントンボのオス。腹部に目盛りのような模様があるのがモノサシトンボ類の特徴。
▲アマミルリモントンボの顔面アップ。なんか不満げな表情に見える。
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