2013年 10月のフィールドノートから

10月19日 奄美市古見方

 秋の渡りの時期、なにか珍しい鳥でも入っていないかと、久しぶりに大川河口の古見方地区にやってきた。名瀬近郊で最大の農耕地で、過去にさまざまな迷鳥・珍鳥が出ている探鳥スポットである。ただここ数年、野菜畑や田芋のがサトウキビ畑に転換されて乾燥化が進んでおり、鳥も少なくなっている気がするのが気がかりではある。農耕地を車でゆっくり走っていると、一羽のサシバが畑に降りて、さかんになにかをついばんでいた。しばらく観察していると飛び去ったので、なにを食べていたのか見てみると、なんとカニ(ベンケイガニ?)だった。サシバがカニも食べることは初めて知った。

 農耕地の巡回を終えて大川を覗くと、一羽のシギの姿がある。スレンダーなアオアシシギである。水量の少ない大川の流れをものともせず、餌を探している。結局、めぼしい鳥はいなかったが、小湊集落の裏手に新しく水田ができたのは嬉しかった。水辺の渡り鳥にとって、きっといい休憩場所になってくれるだろう。

▲農耕地に降りて獲物を探すサシバ。
▲大川の中のアオアシシギ。

10月20日 瀬戸内町諸鈍

 ここ数年、毎年秋に加計呂麻島の諸鈍で探鳥会を行っている。目的は主に渡り鳥。諸鈍は同島最大の水田地帯であり、渡り鳥の中継地となっているのだ。この日は瀬戸内町の町民体育大会ということで、フェリーかけろまの時間が通常よりも30分も早まっていた。おかげで名瀬のわが家を出発したのはまだ夜明け間もない朝6時。ぽつんぽつんと雨が降る中、古仁屋まで1時間のドライブ。途中で雨の勢いが激しくなり、古仁屋についても雨雲は切れそうにない。悪天候で足踏みしたのか、町民体育大会と重なったためか、集合時間に集まった探鳥会参加者はわずかに5名。なんとも気分が盛り上がらないままフェリーで生間港に到着。ところが船を下りると、雨はあがっていた。諸鈍集落まで峠越えで徒歩約20分。途中、産卵を終えたばかりと思われるハラビロカマキリを見つけた。雨の中で懸命に子孫を残したのだろうか、上翅に水滴がついたままになっている。

▲卵鞘のそばでじっとしていたハラビロカマキリ。

 諸鈍長浜公園の集合地点で、加計呂麻島在住の方2名と合流し、合計7名というコンパクトでアットホームな探鳥会のスタート。電線に止まった妻目の中に1羽コシアカツバメが混じっているのを見つけて喜んでいると、そばの藪から、チャッチャッとウグイスよりも優しく乾いた感じの地鳴きが聞こえてきた。ムジセッカかなと思い、待つこと数分、ほんの一瞬だけ姿を現した鳥は、やはり茶褐色みの濃いムジセッカだった。いつのまにか青空がのぞき、サシバが舞っている。ピックイーという鳴き声を聞きながら、アトリの小群やモズの姿に目を休める。

 太陽が照ってきたため、諸鈍名物のデイゴ並木の木陰でひと休み。ここのデイゴはデイゴヒメコバチにやられて樹勢が衰え、一時期葉も花もつけなかったが、ヒメコバチ駆除の成果が出てかなり葉が伸びてきている。一番奥の木は樹齢300年というが、まだまだ元気だ。探鳥会終了後、地元の方に奄美には珍しいキキョウの自生地に連れて行ってもらった。あいにく花は終わっていたが、それよりも残念なのは、すぐ近くまで除草剤がまかれて、植物が赤茶色に変してしまっていたこと。町道端で雑草の管理が必要なのかもしれないが、植物を見境なく枯らしてしまうような薬剤が、人間にもいいはずはない。先日も龍郷町で林道脇の絶滅危惧種リュウキュウスズカケが伐採される事件があったが、行政は草刈りのあり方をいま一度見直してほしいものだ。

▲樹齢300年のデイゴを下から仰ぎ見る。葉が青々と茂っており、周囲に大きな日影を提供している。
▲花が終わったあとのキキョウ。この数メートル横まで除草剤が散布されていた。