2010年 2月のフィールドノートから

2月20日 宇検村・瀬戸内町某水域

 上手氏が4年ぶりにみたびの来島。結婚されて所帯を築かれた彼は、奥様のご紹介かたがた、奄美のヒメドロムシを採集しにこられたのだ。本日の午前中は宇検村の某渓流に入り、ヒメドロムシの採集を開始する。狙うのはノムラヒメドロムシ。記載されてしばらくの間、タイプ標本しかなかったという珍虫であるが、現在では奄美大島、沖縄島、渡嘉敷島の源流部近い清流で採集されているという。上手氏は前回もここで採集した経験があるということで、自家製の特殊ネットを手に、胴長を履いてどんどん沢へ入っていく。私は長靴でアクセスできる範囲内で石の裏側などをガシガシこすってみるが、採れるのはヘビトンボの幼虫やヤゴ、カワゲラやトビケラの幼虫ばかりである。そんななか数頭のプラナリアが採れた。おそらくリュウキュウナミウズムシと思われる。家に持ち帰って再生実験をしてみようと、1頭だけ容器に入れて持ち帰ることに。そうこうするうちに上手氏が戻ってきた。ちゃんとノムラヒメドロムシを2頭ゲットしたとのこと。さすがである。

 午後は瀬戸内町の某川に移動してやはりヒメドロムシ探し。ここは午前中のポイントと違って海岸から3キロほどしか離れておらず、源流部の種とはまた違った種が期待できるという。試しに長靴でガシガシやってみると、ようやく私も1頭のヒメドロムシを捕獲。マルナガアシドロムシだとか。3ミリに満たないような微細甲虫であるが、自分で採集すると、限りなく愛着が湧く。小さな虫を一所懸命撮影していると、上手氏がご満悦の表情で戻ってきた。彼はなんと源流部とは呼べないここでもノムラヒメドロムシを1頭ゲットしたようだ。この珍虫、水が豊富な奄美大島には、まだ案外たくさんいるのかもしれない。

▲上手氏の採集したノムラヒメドロムシ。かつての珍虫もいまや……。
▲私が採集したマルナガアシドロムシ。教えてもらわない限り同定できない。
▲水質のよい川にすむプラナリアは、容器が汚れていたのか、家に帰り着いたときには溶けていた。

2月21日 奄美市住用町内海

 上手夫妻がマングローブのカヌーを楽しんでいる間に、私は内海にハマジンチョウの花を観にやってきた。海浜性の植物であるが、どこにでもあるものではない。ちょうど花が咲いているのではないかという予想は当たり、薄紫色のかわいらしい花を拝むことができた。満足して内海の湾に目をやる。昨年11月に飛来して以来しばらく姿を見せなかったヒシクイが戻ってきているという情報を仕入れたのだ。しかし、肉眼で見る限り、大型のガンはいないようだ。オナガガモのような鳥が2羽いたので双眼鏡でのぞくと、1羽はなんとコクガンではないか。ヒシクイと同じくガンではあるが、ずいぶんとダウンサイジングしたものである。厳しい外洋の荒波に浮いている姿が似合うコクガンが、南洋の内湾でのんびり採餌しているのを眺めるのは、なんだかとても違和感のある光景であった。

▲花弁が五裂したかわいらしいハマジンチョウの花。
▲コクガンは右足を少し引きずっているようだった。けがをしたのだろうか。。
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