2015年 7月のフィールドノートから

7月12日 フォレストポリス自然観察会

 夏は野鳥を観るには不適なので、探鳥会も名前を変えて自然観察会にし、野鳥以外の生き物も積極的に観察するようにしている。今回のテーマはトンボ。というのも、大和村のフォレストポリスの水辺の広場は、奄美には珍しく高地に存在する水域で、止水環境も流水環境もあるため、多種のトンボが観察できるからだ。日本で唯一ハネナガチョウトンボが定着している場所でもある。台風9号は去ったものの、天気はイマイチ。果たして参加者はあるのだろうかと心配していたが、お子さんや高校生がいつも以上に参加してくれて、ふだんの探鳥会とは違う賑やかな会とあいなった。やっぱり子どもは虫が好きなのだ。それでいいのだ。

 お目当てのハネナガチョウトンボをはじめ、チビサナエやリュウキュウトンボ、オオハラビリオトンボなど、いままでここではあまり観たことのなかった種も出て、トンボは全部で18種。真剣に探せば20種類は間違いないだろう。ドジョウやメダカ、ヒメフチトリゲンゴロウもいる。こういう環境は絶対に護っていかねばならない。

▲近年奄美に定着してきたオオハラビロトンボのオス(右)とメス。
▲ヒメイトトンボを捕食するリュウキュウベニイトトンボ。
▲水上を飛ぶリュウキュウトンボと水面に映るオキナワチョウトンボ。

7月18日 奄美大島北部

 6月13日に行ったエリグロアジサシの繁殖地を再訪。その間に台風9号が接近し、奄美近海はかなりの波をかぶったので、繁殖がどうなったか気がかりだった。しかし心配は杞憂に終わった。エリグロアジサシは30羽ほど相変わらず繁殖地の岩礁の周りを飛びまわっているし、なんとベニアジサシも10羽ほど交じっているではないか。失礼して短時間だけ岩礁にあがらせてもらう。ざっと見たところ、エリグロアジサシの卵9個、ヒナ6羽が確認できた。そればかりではない。ベニアジサシの卵も1個だけであるが確認できたのだ。もし繁殖に成功すれば、奄美大島北部では久しぶりの繁殖事例となる。どうか無事に育ちますように。

▲繁殖地の近くの岩礁の上にはエリグロアジサシに交じってベニアジサシの姿も確認できる。
▲エリグロアジサシの生まれたてのヒナ。羽毛がまだ濡れている。

7月26日 奄美大島北部

 台風12号が奄美群島を直撃した。奄美大島では予想されたほど雨風の勢いは強くなかったが、海は大荒れだった。エリグロアジサシとベニアジサシの繁殖地は被害を受けなかっただろうか。祈るような気持ちで訪問してみた。着いた瞬間、悪い予感が頭をよぎる。アジサシの成鳥の数が少ないのだ。エリグロアジサシとベニアジサシ、合わせて10羽ほどしかいない。ヒナたちは大丈夫だったのだろうか。岩礁にあがると、いくつかの卵が産座から転がり落ちて散乱しているのが目に入る。これらの卵はおそらくもう孵ることはことはあるまい。それもさることながら、ヒナの姿がない。みんな高波にさらわれてしまったのだろうか。呆然としていると、小魚をくわえたエリグロアジサシが頭上を旋回している。えさを運んでいるということは、生き残ったヒナがいるはずだ。いま一度よく捜すと、いた! かなり大きくなったヒナが岩陰に身を寄せて隠れている。よくあの時化を生き延びた、と胸が熱くなる。他の場所でも2羽発見。見逃している個体もいるかもしれないが、少なくとも3羽は無事だったのだ! 前回確認したベニアジサシの卵は残念ながら流されてしまったようだ。

 エリグロアジサシもベニアジサシも台風シーズンの真っただ中に奄美や沖縄の岩礁で繁殖する道を選んだ。なんと非効率な繁殖戦略だろう。この鳥たちは、なぜ限りなくリスキーな賭けを選んだのだろう? その理由を知りたい。

▲岩陰に身を寄せてたくましく生き延びていたヒナ。巣立ちまで、頑張れ!
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