2000年 11月のフィールドノートから

11月6日(月)夜~7日(火)早朝 曇 中央林道

 深夜の林道はどこで何が出てくるかわからないスリルがあって楽しい。昼間は出てこないカエルたちも姿を現す。今夜もオットンガエル、リュウキュウアカガエル、アマミハナサキガエルが次々と林道に飛び出てきた。車で轢かないように十分に気をつける。

 と、またしても目の前をぴょんぴょん横切る姿が。今度は何ガエルかと目を凝らすと、尾っぽがあるではないか! アマミトゲネズミだ。間近で観るのは初めてのこと、ラッキー。

 ところどころでアマミヤマシギが現れる。ぼちぼち冬鳥のヤマシギも渡ってくる頃だと聞くが、まだ確認していない。アマミヤマシギと普通のヤマシギをじっくりと見比べてみたいと思うのだが。

 そうこうするうちに午前3時である。眠くなってきたなと思っていると、前方に覆いかぶさった横枝に鳥の姿が。オオトラツグミが眠っているのだった。よほど寝込んでいるのか、照明を当ててもピクリともしない。光をいやがってすぐに目を覚ますルリカケスとは大違いだ。今晩は自分もこの近くで車を止め、仮眠をとることにする。

 翌朝6時、白んできた空に急かされるように起きて、例の横枝を見てみる。すでにオオトラツグミはいない。近くで美しい囀りが聞こえる。まったく早起きなんだから。

▲(暗くてよくわかりませんが)お休み中のオオトラツグミ

11月15日(水)小雨 龍郷町秋名

 電線にアトリが止まったり、ブッシュからマヒワが飛び出してきたり、来る途中の円集落近くの海岸ではカワウの姿も見かけた。すっかり冬鳥の季節だ。

 バードウォッチングは歩いて探すのが基本と思っているが、このところ怠惰になってしまい、車の中から観察してすますことが多い。今日のように小雨交じりだとなおさら車から出るのが億劫になる。

 いかんなあと思っていると、セイタカシギを発見。車のメリットは意外と近くまで鳥に近づけること。おかげで至近距離からビデオ撮影成功。セイタカシギはボクが大学生の頃(約20年前)には珍鳥だったが、現在では東京湾でも繁殖しており、全国的にさほど珍しい鳥ではなくなってきた。それでも何度見てもずばぬけてスマートな鳥だ。

 突然銃声が3発。そうか狩猟シーズンの始まりなのだ。どこにいたのか100羽ほどのカモたちが飛び立つ。ほとんどがコガモで、カルガモやオナガガモも混じっている。落ち着いて着水できる場所を見つけることができず、旋回を繰り返すカモの姿を見て、心が痛む。

▲セイタカシギはなぜこんなに足が長いんだろう

11月17日(金)曇/雨 名瀬市古見方

 岩元会長からメールをいただいた。大川にハシブトアジサシがいるとのこと。さっそく確認のために出かける。赤貝原橋に車を止め、しばらく待つが現れず。しかたなく付近を探索する。

 大川にはオオバンやカイツブリが泳いでいる。河口付近にはカルガモが浮かんでいるし、サシバの暗色型が頭上を通り過ぎた。時折雨も降りつけるというのに釣人の姿も見える。いつも思うのだが、釣人は本当に我慢強い。とても自分にはできないと思う。

 雨が強くなってきたので帰り支度。大川の堤防上の道を走らせていると、ひらひらと舞う白い影が! 双眼鏡でのぞく。間違いない、ハシブトアジサシだ。

 実は1週間前の10日にもここでアジサシの姿を見ている。この時期に珍しいなと思いながらも、3日の大瀬海岸探鳥会ではオニアジサシとコアジサシが出たので、さほど気にせず、フィールドノートには「アジサシ1」と記入していたのだ。多分誤認で、このハシブトアジサシだったのだと思う。まだまだ本土の常識が抜けきらず、奄美ではただのアジサシが珍しく、ハシブトアジサシは比較的よく出現することがわかっていなかったのだ。 ともあれハシブトアジサシとは19年ぶりの対面。大学4年の夏、有明海で目撃して以来だ。嬉しい。

▲ハシブトアジサシが川にいるのも珍しい光景

11月29日(水) 晴れ 住用村役勝

 突然イワカワシジミを見たくなって、ここ数日探している。このシジミチョウは後翅に細い尾状突起を持ち、その根元に黒い斑点がある。それがまるで、触角と複眼のように見えるため、捕食者の注意を尾っぽのほうにそらす働きがあるという。自己擬態と呼ばれる現象だ。幼虫はクチナシの実や新芽を食べるので、成虫もその近くで見られるかと探しているのだ。ミカン(タンカン?)の畑の周囲にクチナシが植えられているのを知って、ここまでやってきたのだが。

 鳥の姿も意外と多い。ウグイス、シロハラ(この2種は最近どこでも見るようになった。本格的な冬到来なのだろう)、タヒバリ、アオジ。よく見るとカシラダカの姿もある。

 肝心のイワカワシジミのほうは、多分幼虫が入っているもであろう穴のあいたクチナシの実はあるが、成虫の姿はさっぱり。産卵場所を探すナガサキアゲハの綺麗なメスがミカンの樹の周りを逡巡している。ルリタテハ、アカタテハ、ツマグロヒョウモン、タテハモドキ…あ、アオタテハモドキ発見。奄美においては迷蝶とされている種だ。きれいなオスを眺めていると、近くに青くないメスの姿も発見。そのうち奄美でも繁殖するかもしれない。

▲青黒白のコントラストが美しいオス
▲目玉模様が目立つメス