2007年 8月のフィールドノートから

8月14日 龍郷町秋名

 今年の奄美は例年以上に暑い。無理して外出したところで鳥も活動していないに違いないと思うと、ますますフィールドに出るのが億劫になって、クーラーのきいた部屋に引きこもり状態でいるうちに8月も半ばになってしまった。いかんなあ。そんな折り、横浜から帰省中の吉沢夫妻からの情報で、秋名に夏羽の残ったアカガシラサギがいると聞き、久々に鳥見に出かけてみる。

 奄美大島では7月に稲刈りをするので、刈られた稲穂が道路脇の木組みにかけて干されている。スズメにとっては恰好のご馳走のようで、稲穂に群がってさかんに米粒をつついている。一年中で一番暑い時期なのだが、この風景はもう秋だな。ふだんはじっくり観もしないスズメにとっぷり30分ほど見入ってしまった。

 稲刈りの終わった田にはタカブシギとクサシギがたくさん。バンやヒクイナ、シロハラクイナの姿もちらほら。アカガシラサギはどこかなと車をゆっくり進めながら探していると、いたいた。タカブシギと一緒に田んぼの泥をつついている。そっとビデオを取り出そうとしたら、横を別の車が通り過ぎ、アカガシラサギは近くの藪の中へ。しばらく待ったが、二度と姿を現してくれなかった。臆病なんだから。

▲干した稲穂にスズメが集まる。上は成鳥、下は幼鳥のようだ。

8月22日 奄美市住用町某所

 夜間のアマミヤマシギ調査を奄美野鳥の会で請け負うようになって5年。今年ははじめて奄美市住用町に調査ポイントを設けて観察を行なっているが、昨年まで以上に標識個体の出現率が高く、よいデーターが取れそうだ。ありがたい。

 本日の調査中に木の枝で休むオオトラツグミを2羽目撃。この鳥も数年前に比べてずい分観やすくなったと感じる。それだけ個体数が回復傾向にあるのだろう。うれしいことだ。それでも出会うたびにビデオを向けてしまうのはバードウォッチャーの性。

▲比較的低い枝で眠っていたオオトラツグミ。ライトを当てたら起きてしまった。まだ若鳥かな?

8月28日 奄美市龍郷町市理原

 皆既月食を観察にやってきた。奄美では月の出から皆既状態だったので、日没の夕焼けの色が残っているうちはなかなかどこにあがっているのかわからなかったが、空が暗くなるにつれて次第に薄赤い月が浮んでいるのが明らかになる。やがて日が完全に沈むと、月はその不気味な赤銅色の姿をはっきりと誇示しだした。不吉な光景に誘われるかのように、水平線上には雷雲が結集し、あちらこちらで稲妻が光りはじめた。それなのに頭上は完全に晴れており、天の川がくっきりと見える。見あげていると、キイロスジボタルのかそけき光が星と同化するようにふらふら飛んでいる。稲光と天の川と蛍の光に演出された皆既月食の赤い月、大自然の雄大さを感じる。

 やがて月の左下から太陽光が当たりはじめ、満月が本来の姿を徐々に現していく。三日月から半月へ、そして満月へ。見る見る間に欠けた部分の面積が小さくなり、輝きを取り戻す。満月は容赦なく明るい。さっきまで見えていた天の川を消し去って、足元はライトで照らさなくとも歩けるほどになる。満月の明かりで道具を片づけ、帰路に着く。

▲皆既状態の赤い月
▲左下から太陽光が射し込む
▲ほとんど食がなくなった状態