2001年 8月のフィールドノートから

8月10日(金)晴 笠利町宇宿農耕地

 夏のこの時期はワシタカが少ないので、サトウキビ畑でミフウズラが観やすい。うまくいけば親子連れが観れるかもしれないと期待して、笠利町のサトウキビ畑にやってきた。朝暗いうちに家を出て、日の出とともに探し始める。ゆっくりと車を走らせると、農道脇の茂みで餌を探すミフウズラは簡単に見つけることができる。しかし、かなり警戒しているようで、なかなか寄れない。ようやく近づいてビデオを回そうとしたら、サトウキビ農家の方が横を車で通り過ぎ、目当てのミフウズラは藪に逃げ込んでしまった。昼間は暑いので、農作業も日の出とともに始まるらしく、まだ午前6時前だというのに、このように意外と交通量が多いのだ。これではミフウズラものんびり餌を採っていられないし、狭い農道に車を停めて撮影なんかしていると農作業の邪魔をしているようで申し訳ない。なかなかうまくいかないものだ。

 親子連れも見つからないし、ミフウズラの撮影は諦めて干潟でも見ようかと車を走らせる途中、干上がった池を発見。ずっと晴天が続いているので、水量が極端に減ってしまっている。農作物にとっては非情な日照りであるが、ボクにとっては幸運かも? 水量が減った池は普段ならば捕まえることができないような水生昆虫を探すとてもいい環境なのだ。さっそく干上がってぬかるみになった池の底に降り、わずかに残った水をタモ網ですくう。ハイイロゲンゴロウやオオミズスマシという普通種ばかりが捕まる。外れかなと思いながら、思いっきり深く網を入れてすくい上げると、泥と一緒にパタパタ暴れる大きな獲物がかかった。大型ゲンゴロウ。泥まみれで一瞬種名がわからないが、大きい。もしやと思って泥を洗い落とすと、フチトリゲンゴロウのオスじゃありませんか! 南西諸島のゲンゴロウの中でも最も希少な種のひとつだ。泥んこになりながら、思わず小躍りしてしまう。

▲釣り針型の黄色い縁取りが特徴のフチトリゲンゴロウ。オス、37mm。

8月20日(月)曇り 中央林道など

 島外会員の藤野ひろ美さんが静岡県からお見えだということで、夜の奄美の醍醐味を知ってもらおうと、ナイトウォッチングに出かけることにした。川口和範さん、小田初男さん、藤野さん&ボクの4名で、AOC事務所を20時前に出発。

 この日は台風11号が奄美の東方海上をゆっくり北上し、一日中強風が吹いていた。その名残で海岸沿いの道では風は吹いているが、林道の中に入ると嘘のように静かだ。期待できそうな予感!

 三太郎峠旧道からスタルマタ線を走る。電線にはルリカケス、キジバト、ズアカアオバト、アカショウビンなどが眠っている。舗装道路上をクマネズミがちょろちょろ走り、アマミハナサキガエルが背筋をぴんと伸ばして道路を占拠している。のっけから好調だ。

 中央林道に入る。しばらく走るとアマミヤマシギ登場。幼鳥のようで、逃げ方を知らない。じっくり堪能。続いてイシカワガエル。まずまずの大きさの成体。人の気配に気づき、じっと身を屈めてやり過ごそうとしている。そうこうするうちに、アマミノクロウサギを発見。ぴょこたんぴょこたん逃げていく。この時期、いたるところでリュウキュウコノハズクのヒナが鳴いている。シャッ、シャッとかすれるような声で親に餌をねだっているのだ。光を当てると、三兄弟がそろってこっちを向いていた。シャッターチャンス!

 圧巻はその後の赤房林道であった。通る人の少ないこの林道はススキが生い茂り、道をふさいでいるが、その分ジャングルクルーズの興奮とクロウサギやヤマシギとの遭遇を楽しむことができる。この日はさらに、ヒメハブやイボイモリにも会うことができた。

 結局13頭のアマミノクロウサギ、20羽前後のアマミヤマシギ、その他多くの鳥や小動物を観察することができ、満足して事務所に戻る。あ、もう午前1時半。ちょっと夜遊びが過ぎたかな。

▲爬虫類の特徴も併せ持った両生類、生きる化石のイボイモリ。

8月26日(日)晴れ 土盛海岸

 今日は宇宿の農耕地でのミフウズラ探鳥会が行われる。集合は7時半となっているので、その前に土盛海岸に寄ってみることにした。1週間ほど前の18日に、ビーチ沖にある岩礁上でベニアジサシが繁殖しているのを見つけたのだ。成鳥の数が100羽ほど、ざっと観て回って、卵が10個、ヒナは5羽ほど確認した。8月も中旬だというのに卵が多く、随分遅い繁殖だと思って心配していたのだ。案の定、台風11号が近海を通り過ぎていった。土盛海岸は太平洋に面しているので、海に突き出した岩礁では波や潮が高かったはず。果たして大丈夫だったのか?

 ビーチに降りた時点で様子が違う。18日には群れるように飛んでいたベニアジサシが極端に少ない。その数10羽程度に減ってしまっている。悪い予感を抱きながら、岩礁に渡る。改めて登ってみると小さな岩礁である。高さは3、4メートルしかない。これでは台風の荒波にひとたまりもなく飲み込まれてしまうだろう。やはり卵はひとつも見当たらなかった。ヒナの姿も確認できい。最悪の事態を想像する。

 岩礁の先っぽのほうをのぞくとようやく飛べるようになったばかりくらいの幼鳥が2羽。なかなか飛び立てずに逡巡している。「お前らは成長が早くてよかったな」と心の中で声をかけ、一歩踏み出すと、ようやく勇を鼓して飛んだ。しばらくそれを見ていたら、キビナゴのような小魚をくわえた成長が近くを周遊している。ひょっとしたら、まだ飛べないヒナが残っているのかもしれないと足元に目を凝らすと、岩の裂け目に1羽、さらにその向こうの窪みにもう1羽、比較的大きなヒナが2羽、ちゃんといるではないか。何とか全滅だけは免れたようだ。

 自然界のおきては厳しい、それでも生き物はたくましく生きている。

▲岩の隙間でじっと親を待つベニアジサシのヒナ。もうすぐ自力で飛べるようになる。