2003年 5月のフィールドノートから

5月11日(日) 龍郷町奄美自然観察の森

 名瀬小学校親子会の自然観察会の講師としてボランティア参加。わんぱくざかりの小4生十数人を引き連れ、自然観察の森を歩く。これだけの子どもたちを静かにさせておくのは土台無理な話で、鳥の姿を観るのははなから諦めているものの、静かに声を聞くことすらままならない。この年代の子どもたちが好きなのは、手で触ることができる小動物なのだ。池の中のシリケンイモリを捕まえたり、木の根元で体をゆすっているザトウムシに恐る恐る手を出したりして、きゃあきゃあ喜んでいる。こちらも子どもの目線になって、森を見渡してみる。アカメガシワの花に、たくさんの昆虫が集まっている。テングチョウにアカタテハ、コガタスズメバチにクマバチ、オオシマオオトラフコガネ、オオシマヒラタハナムグリ、オキナワコアオハナムグリ、そして数多くのハナアブたち。じっと観察していると、隣の裸木の若芽にツマベニチョウのメスが飛来して、お腹を曲げている。食樹のギョボクに産卵をしているのだった。

▲ギョボクの若葉に産み付けられたツマベニチョウの卵。幼虫が孵化する頃には葉も大きくなるのだろう。

5月18日(日) 笠利町土盛

 梅雨入りした奄美はこのところ毎日雨続き。きょうも朝から雨であるが、毎日部屋にこもっているのもつまらないので、鳥を観に出かける。大瀬海岸は大潮と新川から流れ出た水の影響で、ほとんど陸地が見えないくらいの水嵩。波打ち際にキアシシギ、キョウジョシギ、ウズラシギなどの姿がぽつんぽつんと確認できるのみ。上空にはコアジサシの姿がちらほら。雨が強くなり、とても探鳥を続けていられず、車に退避。後背地であるサトウキビ畑を回ってみることにした。

 満ち潮を避けてシギチが避難していないかと刈り終わって耕された土くれを丹念に探すが、それらしい姿はない。夏鳥のツバメチドリの姿を確認できるくらいである。そのときスプリンクラーの上に1羽の鳥を発見。たたずまいはチョウゲンボウに似ているが、彼らは越冬を終えて北へ帰ったはず。双眼鏡をのぞいてびっくり、アカアシチョウゲンボウのオスである。この鳥、いまを遡ること22年前、大学時代の春の対馬でちらっと観ただけの鳥である。嬉しさのあまり、思わず焦って、フィールドスコープやデジカメを取り出す手が震える。デジスコをセットするのにやたらと時間がかかってしまい、逃げてしまうかと心配したが、とてもサービス精神の旺盛な鳥で、同じ場所でじっと待ってくれている。ようやくセットするも、雨で暗い悪条件のため、ろくな写真は撮れない。だがいい、記録には残せなくてもアカアシチョウゲンボウはさまざまなポーズを決めてくれたのだから。時折、農耕地に降りて昆虫らしきもの(バッタか?)を捕まえては、同じスプリンクラーに戻ったり、雨を払うために翼と尾羽をぶるぶる震わせたり。そんなときに一瞬のぞく翼下面の白がどきっとするほど美しいのだった。

▲雨に濡れてたたずむアカアシチョウゲンボウ

5月28日(水) 大和村フォレストポリス

 梅雨の合間の晴れを見計らって、早朝よりドライブ。マテリアの滝の付近でオオトラツグミがさえずっているのを確認し、5時20分にフォレストポリスに到着。ようやく明るくなってきたところで車を降りて、水辺の広場の周辺を鳥を探して散策する。水辺にはこれといって目ぼしい鳥はいない。背後の森からアカヒゲやサンコウチョウの鳴き声が聞こえてくるばかりである。

 隣接するキャンプ場へ。ここでは三年連続、同じ巣穴でオーストンオオアカゲラが子育て中。例年であればこの時期にはヒナはもう巣立っているはずだが、今年はヒナの育ちが遅く、まだほとんど穴から顔をのぞかせる様子もない。メス親が餌を持ってやって来た。丸い球状の……タブノキの実であろうか。巣穴の中から甘えたようなヒナの声が漏れる。少なくとも2羽はいるようだ。きっと中では朝一番の食事の取り合いになっているのだろう。メス親が去ると、入れ違いでオス親がやってきた。こちらはカミキリムシの幼虫のようなものをくわえている。さっきの木の実を我慢した子がこのごちそうにあずかれるのかな?

▲カミキリムシの幼虫のようなものをくわえてきたオーストンオオアカゲラのオス
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