2003年 7月のフィールドノートから

7月2日(水) 名瀬市某所

 梅雨明けした奄美大島は昆虫たちのパラダイス。このときを待ち構えていたかのように、さまざまな虫たちがうごめきだす。ここ数日昼の暑い時間帯に森を歩いているのにはわけがある。ひと目でいいからフェリエベニボシカミキリを観たいがためだ。奄美大島の昆虫で最も華麗と言っても過言ではないこのカミキリには過去3年振られ続けている。個体数が少ないのはもちろん、発生時期が梅雨明け後の数週間に限定されているのもこの虫が観づらい大きな要因となっている。

 今日もこのところ恒例となったお決まりのコースをたどって森の中を歩く。第一ポイントに到着。フェリベニは倒木に集まる習性があるので、状態のよい木を探せば会えるチャンスがあるのだ。しかしながらそこに憧れのカミキリの姿はない。苔蒸した樹肌に赤い鞘翅はさぞかし映えるだろうにと想像をたくましくしつつ、第二のポイントに移動する決意を固めた。

 そのときである。赤い閃光が目の前を横切った。「もしかして?」心拍数があがる。期待に膨らむボクの目の前にその虫は舞い降りた。フェリエベニのオスではないか! 倒木の近くの葉の上に止まったのである。折りよく、雲の間に隠れていた太陽が顔をのぞかせる。その瞬間、木漏れ日を受けたフェリベニは神々しく輝いた。緑の葉とのコントラストがえもいえず壮絶に綺麗。時間を忘れ、デジカメのシャッターを押しまくるだけであった。

▲緑の葉上で己の美しい姿を誇示するフェリエベニボシカミキリのオス

7月13日(日) 笠利町蒲生崎

 昨日から蒲生崎でサンコウチョウのバンディングを行っている。この森ではサンコウチョウはすでに繁殖を終えており、巣立ったばかりの幼鳥たちが、あちらこちらで賑やかにさえずっている。縄張り意識の強いこの鳥は、テープでコールバックを行えば比較的簡単に捕まえることができる。

 朝からあきれるほどよい天気である。日が高くなる前になんとか捕まえたいと一部網場を変更する。テープを流して待つこと1時間。残念なことに新しい網場にはなにもかかっていない。近くからサンコウチョウの声は聞こえるのだが、警戒しているのだろうか。次の網へと移動する。昨日から一番成果があがっている網である。逆に言えば、もうぼちぼち鳥の方が学習してかからなくなるだろうと半分諦めてる網でもある。期待せずに目をやると、その網の真ん中あたりに茶色の鳥がかかっているではないか。尾が短いサンコウチョウのメスである。換羽中なのか顔は丸裸である。

▲12日にかかったサンコウチョウのオス成鳥。これ見よがしに長い尾に注目。
▲13日にかかったサンコウチョウのメス成鳥。換羽中なのか顔は丸裸。

7月27日(日) 瀬戸内町アジサシ探鳥会

 加計呂麻島をぐるっと一周する形で船上からアジサシを観察する7月恒例の探鳥会。アジサシ類は年による渡来数の変動幅が大きい。一昨年は無人島の赤瀬で数百番ものコロニーを観ることができたものの、昨年は数えるほどしか観察できなかった。さて、今年はどうだろう。期待に胸を膨らませ、チャーター船に乗り込む。

 最初の目的地はやはり赤瀬。どうか繁殖していますようにと祈る気持ちで向かう。途中、大島海峡でベニアジサシの小群をいくつか目撃。少なくとも去年よりは渡来数は多そうだ。そうこうするうちに波の向こうに赤瀬が見えてくる。さあ、どうだ?–双眼鏡でのぞくも鳥影はなし。今年も駄目か? 赤瀬に接岸。残念なことに今年もまったく繁殖している形跡がない。ベニアジサシは神経質な鳥で、人間が少し近づいただけで繁殖放棄することがあるとも聞く。赤瀬には釣り人がよく上陸しているらしい。それが原因ならばちょっと悲しい。

 繁殖は確認できないものの、赤瀬の近くにある小さな岩礁上には数十羽のアジサシが群れているのが見える。そちらに移動してみる。岩礁に近づくと、羽を休めていたアジサシが一斉に飛び立つ。船上から観察するわれわれの目線の高さで至近距離を飛び回るアジサシたち。壮観だ。エリグロアジサシとベニアジサシがちょうど半々くらいだろうか。その中に2羽、歴然と大きく黒っぽいアジサシの姿を発見。マミジロアジサシである。一昨年の探鳥会以来、少数ながら毎年確認されているマミジロアジサシ、そのうち繁殖を確認するのが夢。

▲岩礁上で休むエリグロアジサシ
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