2003年 8月のフィールドノートから

8月6日(水) 瀬戸内町の某林道

 台風10号が近づいている。台風後の林道は土砂崩れや倒木でいたるところが遮断され、数日は通れなくなることもある。そうなる前にと、今晩は瀬戸内町の林道を走ってみることにした。名瀬から遠いこともあって瀬戸内町の林道を夜走る機会は少ない。しかし場所によってはたくさんのアマミノクロウサギに会える道もあるし、イシカワガエルがいっぱいいる道もクワガタなどの昆虫が豊富な道もある。まだまだおもしろい道はたくさん残っている。

 ある林道でリュウキュウマツムシの美しい声に聞きほれていると、奥からジャッ、ジャッと野太い声が聞こえてきた。リュウキュウコノハズクの巣立ち雛の声だ。この時期、リュウキュウコノハズクの幼鳥をいたるところで目にする。この声で鳴いては、親鳥が餌を運んでくれるのを待っているのだ。大きさはもう成鳥と変わらないのに、甘えん坊だこと。

▲2羽で寄り添い親鳥が餌を運んでくるのを待つ、リュウキュウコノハズクの幼鳥

8月15日(金) 奄美大島南部の某林道

 きょうの狙いはアマミミヤマクワガタである。このクワガタのオスは風通しのよい高木や電柱にとまるという変わった習性を持っている。したがってポイントがわかっていれば電信柱を丹念に探していけば、その姿を見ることができるはず……ほら、いた!

 地上5メートルくらいの高さのところにへばりついているオスの中型個体を発見。ライトを当てると、まぶしいのか移動しようとするのだが、いかんせん足がかりの乏しいコンクリート製の電柱なので思うように方向転換できずに苦戦している。まぜこうまで苦労して、電柱に取り付いているのか? きっと見晴らしのいい高い位置におのれの姿をさらして、メスにアピールしているのだろう。いまだ電柱上で交尾しているシーンを見たことはないが(かなりアクロバティックな行為である!)、そんな場面に出遭えれば最高である。悪戦苦闘しながらしがみつくオスを10分ほど観察して、その場を去った。どうぞ彼が無事にメスをゲットできますように!

▲電柱にしがみつくアマミミヤマクワガタのオス

8月20日(水)~21日(木) 十島村宝島

 奄美野鳥の会の有志5名(高、川口和、武田、勝山、私)で、トカラ列島の宝島に行ってみることにした。通常、定期船としまでトカラの島々に渡ろうとすると、名瀬発の便は毎週水曜日出港、名瀬着の便は毎週火曜日帰港のため1週間の日程が必要となる。しかし今回は夏休みに合わせて特別ダイヤが組まれ、1泊で宝島往復が可能になるツアーが設けられたのだ。近くて遠い宝島に行く絶好のチャンスを利用して、どんな鳥たちが生息しているのか調べてみようということになった。

 早朝4時に名瀬港を出港、3時間の航路で宝島に着く。島が近づいてきたのでデッキに出ると、海上にはたくさんのオオミズナギドリが飛んでいる。幸先のよいスタートである。島に到着後、民宿に荷物を置き、朝食をいただいて8時過ぎから島内を回ってみることに。宝島は面積7.14km、周囲12.1kmというので、奄美諸島でいえば、与路島よりも少し小さい。島の中央部に標高292mのイマキラ岳がそびえており、島の北部に唯一の集落があって約120名の人が生活している。島をほぼ一周するように道が作られている。砂丘を通って島の東部の宝島港へ、そこから山麓の道路を南下して荒木崎へ、さらにイマキラ岳頂上の展望台や島の西部にある鍾乳洞へと行ってみる。昼間ということもあるが、ほとんど鳥の姿が見えない。浜辺でイソヒヨドリとハシブトガラス、牧場でキセキレイ、セッカ、チュウサギ、ツバメ、リュウキュウツバメがときどき視界を横切るだけで、びっくりするほど鳥が少ない。植生はマツとタケが主体で、ビロウも多い。シイは山頂近くにわずかしかなく、一見緑に覆われているように見えても、貧相な林である。オオシマトカゲ、ヘリグロヒメトカゲ、アオカナヘビの姿はよく見かけるが、鳥類や哺乳類には暮らしにくい島かもしれない。

 バンディングを行おうと網とポ―ルを持参したのだが、網場に適した場所が見つからない。事前に地図で予習していた水田は、7月中旬には稲刈りが終わって水はもう張られていない。大池という場所もあるのだが、この時期には水が涸れてしまっている。牧場は多いがそこに鳥が集まっているわけでもない。こんな調子じゃとてもバンディングどころではないと、午後は民宿でビールを飲みながら昼寝をして、夜間の観察に体力を温存することにした。

 その夜の観察では、アカショウビンとズアカアオバトが寝ている姿を確認。特にアカショウビンは数が多く、人が少ないためか、手が届きそうな低い枝先で無防備に眠っている。餌となるトカゲ類が多いので、アカショウビンには天国なのかもしれない。ともあれ、ようやくバードウォッチングらしい時間を過ごすことができて、ひと安心である。鳥以外では観たかったタカラハブには会えなかったが、リュウキュウアオヘビとリュウキュウカジカガエルを目撃することができた。民宿に帰って、ビールを飲んでから就寝。

 翌朝は5時半から観察開始。前日よりも空気が澄んで眺望が利く。北に小宝島、悪石島、諏訪瀬島を、南には横当島、奄美大島を見ながら車を走らせる。この朝、観察鳥種にヒヨドリ、メジロ、サンコウチョウ、カラスバトが加わる。ヒヨドリやメジロは捕獲して亜種等を調べたかったのだが、いかんせん生息数が少ない。姿の確認だけで満足する。さらに朝食後宝島港でハシブトガラス6羽に追い立てられるハヤブサと、リーフにたたずむアオサギの姿を確認し、確認鳥種は島内15種&航路1種。帰りの船内ではただひたすらビール。

 決してたくさんの鳥が観られたわけではないが、初めての宝島では十分にのんびりすることができた。それにしてもよくビールを飲んだなあ。ま、暑かったし……。

▲低い枝先で眠るアカショウビンの幼鳥
▲朝焼けの向こうにトカラの島々が右から小宝、悪石、諏訪瀬の各島(写真撮影:川口和範さん)