2007年 4月のフィールドノートから

4月4日(水) 奄美市笠利町万屋

 奄美は新緑の季節である。アカヒゲのさえずりも今が最盛期。緑に囲まれて美声に聴きほれていると、春の陽気ですぐに眠気が襲ってくる。いかんいかん、ガイドの途中だった。昨日今日とバードウォッチングガイドで、島内各地を案内しているのだ。

 固有種をひととおり観たり聴かれたりされて、満足されたようすのゲストを空港までお送りする。その前に一箇所立ち寄りたい場所がある。昨日空港そばの農耕地に、ムクドリの群れに混じってホシムクドリが1羽いたという情報をいただいたのだ。おおまかに電話で聞いた場所へ車で近づいてみると、渡り途中のツバメが群れ飛んでいるので、目的地はすぐにわかった。捨てられた汚泥に集まる小さな昆虫(種不明)の大群というご馳走を目つけてツバメが乱舞していたのだ。地面には、タカブシギやコチドリ、ムネアカタヒバリに混じって、なるほど10羽を越えるムクドリの群れがある。どれどれホシムクはどこかな、と探したが、見当たらず。どうやら抜けてしまったようだった。代わりにというわけでもなかろうが、ツバメチドリが3羽。4月も頭というのに、早くも夏鳥の到来である。ツバメチドリは怠慢にも地面に脚をついたままで、首を伸ばして虫を捕食していた。

▲ビデオの画質が悪くてすみません。中央付近に2羽のツバメチドリがいるのですが……。

4月15日(日) 奄美市笠利町宇宿

 鳥によって渡りの期間というのはずい分幅がある。短い時間にさっと渡ってしまう鳥がいる一方で、だらだらと渡っていく鳥もいる。後者の典型がヤツガシラではないだろうか。この鳥は毎年2月には春の最初の渡りの個体が見つかっている。そして8月には秋の渡り個体が通過しているようである。かなり気の早い渡り鳥であるが、中にはのんびり屋もいて、今頃渡っていくものもいる。7月初旬に観たこともあり、こうなると遅すぎる春の渡りなのか、早すぎる秋の渡りなのか判然としないのである。

 宇宿漁港にヤツガシラが来ていると連絡を受けたのが1週間前だった。今日空港に用があったのでついでにのぞいてみると、悠然と餌を探している個体が1羽いた。同じ個体だとすると中継地に1週間も滞在していることになる。こいつが繁殖地にたどりつく頃には、気の早い個体は帰り支度をはじめているのでは?

▲ツルハシのような頭部が特徴的なヤツガシラ

4月18日(水) 奄美市笠利町万屋

 悪天候のため家で仕事をしていると、ガイド中の高さんより電話があり、コシャクシギが5羽出ているとのこと。コシャクシギといえば、大学3年時に対馬で見逃して以来、四半世紀にわたりすれ違い続けている小癪にさわる鳥№1である。そんな過去を暴露したことがあったので、高さんが報せてくれたのだ。

 こうなったら仕事なんてしている場合ではない。2分後には愛車に乗り込んで笠利を目指していた。45分後、念願のご対面。風雨の強い悪コンディションだったが、ばっちりライファーをゲット。高さん、ありがとうございました!

▲小癪にさわるコシャクシギ。短い嘴がキュートです。

番外編:4月22日(日)~24日(火) 沖縄県ヤンバル国頭村

 近くて遠いヤンバルの森林。東京にいるときは飛行機の本数も多くよくでかけていたののだが、こちらに移住してからは(丸7年!)、よほど決心しなければ行く機会がない。今回は北海道在住の先輩がヤンバルの森を見てみたいということだったので、ご案内することに。

 同じようで違うヤンバルの生物。気候や植生は奄美大島によく似ており、生息している生き物にも共通種が多い。一方でヤンバル固有種も多く、今回は40時間の滞在でそんな固有種をどれだけ観られるかが勝負。初日の夜には幸先よく林道上でナミエガエルを発見。一見ホルストガエルに似ているが、瞳の形が特徴的でキュート。二日目にはヤンバルクイナとリュウキュウヤマガメをゲット。どちらもヤンバルを代表する生き物なので、意気が上がる。そして三日目の朝にはノグチゲラをじっくり観察。遠くからドラミングの音も聞こえてき、この深い森のどこかで繁殖期を迎えているんだろうな、と思いを馳せる。

ヤンバルの森にしか生息していないナミエガエル。口先についた小枝がちょっと邪魔だけど、あえてそのままに。
陸生のリュウキュウヤマガメ。尾が太めなのでオスかな?
枯れ木から飛び立つ寸前のノグチゲラ。シルエットのほうが謎めいた雰囲気を味わえるか。