2005年 4月のフィールドノートから

4月9日(土) 大和村津名久川

 オオトラツグミのさえずり一斉調査が終了した後も、野鳥の会の有志によって補足調査を続けている。それも本日と明日大和村の調査を終えると終了である。

 調査終了後、川口和範さんに津名久川に連れてきてもらった。この時期、モクズガニの稚ガニの溯上が見られるというお話なのだ。津名久川は河口の幅でさえ10mあるかないかの小さな川である。ちょうど満潮で、稚ガニが川をさかのぼるには絶好の時間帯である。川口さんについて、上流へ。といっても5分も行かずに、川幅はぐんと狭くなる。小川のようなもんである。こんな小さな流れでいいのかなと半信半疑のボクを置き去りにして、川口さんは河川敷に降りていく。水面を凝視するがカニらしき姿はない。やっぱいないんじゃないのと思っていると、ほらここという声。川口さんの指差した先に……いたいた、5mmに満たない半透明の稚ガニがうじゃうじゃ!その数、数百とも数千とも。ひっきりなしに小さな歩脚を懸命に動かして、上流をめざしていく。このうち何割が再び海に降りてこられるのだろうか。このうち何割が人間の口に入るのだろうか。

▲懸命に川をさかのぼるモクズガニの稚ガニなんだけど、わかるかなあ?(写真:川口和範さん)

4月22日(金) 徳之島当部林道

 19日から4泊5日の日程で、徳之島のアマミヤマシギの調査。調査隊は奄美大島から一緒にやってきた高さん、川口和範さん、川口秀美さんに、現地の木村さん。いずれも奄美野鳥の会のメンバーである。 初日の夜こそ雨混じりの悪天候であまりアマミヤマシギを見かけることができなかったが、それ以降はかなりの数を目撃できている。幼鳥連れの個体もおり、徳之島でも順調に繁殖がはじまったようだ。

 徳之島の両生爬虫類相は奄美大島と違っていて興味深い。爬虫類では、奄美大島にいるヒャンがここではハイに変わるし、ハブの色合いもずいぶん異なる。ここより南には分布しているクロイワトカゲモドキ(オビトカゲモドキ)は奄美大島では見ることができない。寝泊りしているバンガローでもさかんに鳴いているホオグロヤモリも大島ではなじみのうすい生き物だ。

 両生類では、大島にはあんなにたくさんいるシリケンイモリが徳之島には生息していない反面、大島ではなかなか見づらくなったイボイモリがまだまだこちらには多く生息している。木村さんから林道上の水溜りでイボイモリの幼生が観察できるとの情報を得、奄美大島組の4名で連れ立って探しに来た。さっそくにごった水溜りを発見。こんなところにいるのだろうかと半信半疑で金魚網ですくうと、あっけないほど簡単に2匹の幼生がつかまった。全身黒っぽいシリケンイモリの幼生とは違い、体色は褐色あるいは半透明である。エラの付け根が赤みを帯びているところがキュート。よく見ると、とっても華奢な前肢と後肢も確認できる。大島ではめったに観察できないだけに、撮影会の開始。大のおとなが4人、水溜りにしゃがみこんで必死にデジカメのシャッターを切っている光景を通りがかりの人が見たら、さぞや不可思議な見世物だろう。

▲はじめて目にしたイボイモリの幼生(写真:川口秀美さん)。