5月9日 喜界島
国立科学博物館の濱尾章二氏が亜種ダイトウウグイスの調査のために喜界島にいらっしゃったので、それを手伝うために海を渡る。濱尾さんは、ウグイスの一夫多妻制の成り立ちに捕食者の存在とメスの離婚と再婚が大きく関係しているのではないか、との仮説のもと調査プランを立てられていた。
調査地は喜界島の中心地である湾から車で5分という至近距離なのだが、そこの景観に驚く。ギンネム、ナピアグラス、モクマオウ、シロノセンダングサ、ランタナ、アカギ……目につく植物が片っ端から外来種なのである。もともとの植生がどんな様相だったかなんて、いまではまったく想像ができない。さらにそこかしこからキジの鳴き声が聞こえ、イタチの姿もよく見かける。奄美大島にも外来種は多いが、喜界島におけるはびこりかたはすさまじい。まさに外来種天国である。そんな外来種もやがては喜界島の自然環境の構成要素となる。ナピアグラスの密な茂みはダイトウウグイスにかっこうの営巣場所を提供し、大量のギンネムにはギンネムハジラミがついて枯らし、こんどはそれを追ってハイイロテントウが出現するのだ。自然は生物同士の相互作用でできあがっていく。なかなか一筋縄にはいかないものだ。
ホーホキョというダイトウウグイス特有の舌足らずの囀りに耳を傾けていると、大型のチョウがふわふわと現れ、近くのランタナで吸蜜をはじめた。体内に毒を蓄えているので捕食者の目など気にしておらず悠然としている。非常に撮影しやすいチョウである。
外来種天国のこの島にも固有種はいる。その希少な固有種が絶滅危惧ⅠA類のヒメタツナミソウである。自生地である滝川小学校前へ行く。湧水の近くに看板が立っているので、場所はすぐにわかったが、花期はこれからが本番らしく、ほとんどが花芽の状態だった。それでも粘り強く探し、ようやくふたつ花を見つけた。思ったよりも大きな、白く清純な花だった。
5月31日 龍郷町屋入
オリイコキクガシラコウモリの棲む洞窟に久々に入る。というのも知り合いのバンダーが来島し、コウモリにつくトコジラミを採取したいというのだ。アブラコウモリには結構トコジラミがついているらしいが、果たしてコキクガシラコウモリにつくものだろうか。この時期にコウモリ観察に行くのははじめてである。期待半分で行ったところ、残念ながらトコジラミは見つからなかった。しかし、うれしい発見が。今の時期コキクガシラコウモリは繁殖シーズンらしく、子どもをだっこしている母コウモリがたくさんいたのである。コウモリといえば頭を下にしてぶらさがるのが定番だが、子どもは頭がちゃんと天井を向いている。さかさだっこがかわいかった。