*番外編*10月16日~22日 マダガスカル探鳥旅行
奄美野鳥の会の有志で海外探鳥ツアー。第3回目の今回はついにアフリカに進出。といっても大陸ではなく、固有種の宝庫である島国のマダガスカル。第1回目が世界第3位の広さのボルネオ島、第2回が世界第2位の広さのニューギニア島、そして今回が世界第4位のマダガスカル島……つくづく島が好きな人々である。
関空からバンコクまで6時間、さらにレユニオン経由でマダガスカルの首都アンタナナリヴまで10時間。長い長い旅を経て、10月16日の深夜に到着。日本語ガイドで鳥にも詳しいリヴさんと合流したあと、その日はただCARLTON HOTELに向かって寝るだけで終わる。
翌17日、朝起きてホテルの周りを散策する。マダガスカルはちょうど乾期の終わりにあたり、雨期が始まろうという時期に当たる。ちょうどジャカランダの花が咲き始め、朝靄が紫色に煙っている。ホテルのすぐそばにアヌシ湖という半人工湖があり、公園になっている。そちらに足を伸ばすと、クロヒヨドリMadagascar BulbulやベニノジコMadagascar Red Fody、マダガスカルメジロMadagascar White-eyeなどの小鳥たちがジャカランダの花に集まっている。水面に目を移すと、ダイサギGreatHeronとクロコサギBlack Heronの姿がある。クロコサギは自分の翼で影を作り、魚を探すポーズが愉快である。その後全員でツィンバザザ動物園に行き、マダガスカルの動植物の予習。園内の池にはシロガオリュウキュウガモWhite-faced Whistling Duckが泳ぎ、アマサギCattle EgretとゴイサギBlack-crowned Night Heronが営巣している。と、青い閃光が水面を横切る。日本のカワセミよりも背面の青みが強いマダガスカルカンムリカワセミMadagascar Malachite Kingfisherだ。息を呑んでその美しい姿を堪能した。
▲咲き始めたジャカランダの花。下を通と、垂れてくる蜜で濡れることがある。
▲翼で影を作るクロコサギのユニークな採餌行動。
▲マダガスカルカンムリカワセミという名前だが、冠羽は見当たらない。
その日のうちに慌ただしく空路ムルンダヴァまで移動。バオバブの一種であるグランディディエリGrandidieriの並木道で知られる観光地である。マングローブ沿いの宿BAOBAB CAFEにチェックイン後、バオバブの群生地まで移動。距離は15kmほどしかないのだが、舗装道路がぼろぼろに崩れていて未舗装道路よりもかえって走りにくいという状態であるため、移動にやたらと時間がかかる。なんとか日没前に到着。観光名物のバオバブが特異なシルエットで我々を迎えてくれる。妙な声の鳥がいるので双眼鏡で覗くと、いました! ハシナガオオハシモズSickle-billed Vangaである。バオバブの枝先に止まっている姿をじっくり観察できた。他にもマダガスカルバンケンMadagascar CoucalやマダガスカルチョウゲンボウMadagascal Kestrelなどを観ていると、次第に日が傾いてきた。夕日に染まるバオバブは実に絵になる。何枚も何枚も撮影し、さあ帰ろうかというときに大型の猛禽が舞った。マダガスカルチュウヒダカMadagascar Harrire-Hawkである。すぐ近くのバオバブに飛来したのだが、あいにく日没後で光量が足りず、細部までは観察できなかった。
▲オオハシモズは適応放散で知られる。ハシナガオオハシモズは名前の通り長く曲がった嘴を持つ。
▲沈む夕日とグランディディエリ(バオバブ)。この樹形が絵になる。
▲最後に飛来したマダガスカルチュウヒダカ。まだ若い個体である。
10月18日、朝起きてモザンビーク海峡沿いの海岸を散歩。海岸ではアオアシシギCommon GreenshankやチュウシャクシギWhimbrel、キョウジョシギRaddy Turnstone、オオメダイトドリGreater Sand Ploverなど、日本でもなじみの深いシギチの群れに、1羽見慣れない小型のチドリが混じっている。どうやらシロビタイトドリWhite-frontedPloverのようである。マングローブではヒメシチホウMadagascar Mannikinの姿を観、マダガスカルホトトギスMadagascar Lesser Cukooの声を聴く。
この日はキリンディー森林保護区まで片道3時間の旅である。車で揺られて向かう途中、前日の夕方にも訪れたバオバブの並木道に出た。バオバブの枝先にニシマダガスカルハタオリドリSakalava Weaverの巣とマダガスカルオウチュウCrested Drongoの巣を発見。さらに、マダガスカルアオバトMadagascar Green PegeonやチェバートオオハシモズChabert’s Vangano姿も確認。ただし、目的地のキリンディ-はまだまだ遠いので、じっくり観察するのはあきらめて、先を急ぐ。
▲バオバブの枝先に止まるチェバートオオハシモズ。名前に反して嘴は小さい。
ようやくたどり着いた保護区ではいきなりヴェローシファカVerreaux’s Sifakaがお出迎えしてくれて、長旅の疲れが一気に吹き飛ぶ。ここはシファカ以外にアカビタイチャイロキツネザルRed-fronted Brown Lemurの数が多く、森で何度も遭遇した。鳥では、オニジカッコウGiant Coua、、シロハラハイタカFances’s Sparrowhawk、クビワニセムシクイチメドリCommn Jery、アルダブラタイヨウチョウSouimanga Sunbird、マダガスカルシキチョウMadagascar Magpie Robinなどが次々登場。汗ばむ森の中を楽しく散策した。しかし、ここでの最大の見物はマダガスカルサンコウチョウMadagascar Paradise Flycatcherだった。テラス風の食堂でランチを食べていると、すぐ前の木に惜しげもなくその姿を現わしてくれたのだ。全員、食事の手を止めて、赤茶色の体のオスの動きを追ったことは言うまでもない。
▲キリンディー森林保護区の入口付近にいたヴェローシファカ。横っ跳びが得意だが、このときは木にしがみついていた。
▲アカビタイチャイロキツネザル。この森では研究のために首輪付きの個体が多かった。
▲地面で固まってしまったオニジカッコウ。逃げるタイミングを失ったようで3mほどの距離まで近づけた。
▲今回の旅の目的のひとつマダガスカルサンコウチョウ。このオスは茶色タイプ。
10月19日は移動日である。ムルンダヴァから飛行機でいったんアンタナナリヴへ戻り、飛行機を乗り継いで南部のフォートドーファンへ。そこから陸路を4時間かけて、ベレンティー私設保護区へ。マダガスカルは広く、移動だけで丸一日かかってしまう。フォートドーファン郊外は水田が広がっており、アフリカというより東南アジアを思わせるような景色だったが、道中水田で餌をついばむシュモクドリHamerkopや川の近くの木でアフリカコビトウLong-tailed Cormorantが観られたのは幸運であった。暗くなってから保護区内のBERENTY LODGEに投宿。
20日は終日ベレンティー保護区内で生き物を探す。まずは早朝のアクティヴィティ。現地日本語ガイドのオリビエさんがやにわに口笛で鳥の鳴き声をまねすると、すぐにカギハシオオハシモズHook-billed Vangaが現われた。それを観察したあと森に入る。カンムリジカッコウCrested Coua、クロインコGreter Vasa Parrot、ヤツガシラHoopoe、マダガスカルアオバズクWhite-browed Owlなどが次々と現われる。この森にはワオキツネザルRing-tailed Lemurが多い。カフェで朝食をとっていると、おこぼれにあずかろうと図々しく近づいてくるのである。おかげで至近距離で観察することができる。
▲目元が美しいカンムリジカッコウ。
▲寝ぼけまなこのマダガスカルアオバズク。
▲ワオキツネザルは人を怖がらず、すぐ近くまで寄ってくる。
朝食後は同じ森をもう少し長い距離歩く。すぐにアフリカブッポウソウBroad-billed Rollerが高い木の枝に止まった。上空をマダガスカルカッコウハヤブサMadagascarCukoo-Hawkが飛び、林床をマダガスカルミフウズラMadagascar Buttonquailが走り回る。カルカヤインコGrey-headed LovebirdやニュートンヒタキCommon Newtoniaもちょろちょろしている。飽きずに歩き回っていると、目の前に尾の長い白い鳥が飛び出してきた。マダガスカルサンコウチョウのオスの白色タイプである。マダガスカルサンコウチョウのオスにはキリンディーで観た茶色タイプとこの白色タイプのふたつのタイプが知られているのだ。以前この鳥を研究していた同行者の水田拓さんによると、両者の比率はおよそ半々とのこと。どうして多型が生じるのだろうか。不思議である。ちなみにメスはすべて茶色タイプである。
午後は昼寝をし、夕方オオコウモリを見に行く。日が暮れてからはナイトツアーで、夜行性のキツネザルを探す。昼行性のワオキツネザルやヴェローシファカと違って、夜行性のキツネザルは小さい上に単独生活なので探すのに骨が折れる。しかし、さすがにここの森を熟知したオリビエさん、懐中電灯ひとつでなんなくシロアシイタチキツネザルWhite-footed Sportiv LemurとハイイロネズミキツネザルGrey Mouse Lemurを見つけ出してくれたのだった。
▲アフリカブッポウソウがユーカリの枝先に止まった。
▲マダガスカルサンコウチョウのオスの白色タイプ。茶色タイプとはまるで別種のようである。
▲夜行性のシロアシイタチキツネザルがカナボウノキに止まってこちらを見ている。
10月21日は再び移動日。ベレンティーからフォールドーファンに向かう途中、シッポウバトNamaqua DoveやハシリジカッコウRunnning Couaを観察。大統領がフォールドーファンに来るということで、飛行機の時間は大いに遅れ、アンタナナリヴに着いたのはもう夕方だった。
最終日の22日はリヴさんの案内で首都の市内観光をしたあと、郊外のタラサウチャという湿地を訪れた。池にはシロガオリュウキュウガモ、コブガモComb Duck、アカハシオナガガモRed-tailed Tealが泳ぎ、よく探すとアカリュウキュウガモRufous Whistling DuckやアフリカコガモHottentot Tealも入っている。池の中の島はサギの繁殖地になっており、アマサギ、ゴイサギの他にクロコサギやマダガスカルクロサギDimorphic Egret(ほとんどが白色型)、カンムリサギSquacco Heronなどが混じっている。ここのシンボルであるマダガスカルカンムリサギMadagascar Pond Heronは2羽しか見つけることができなかった。アシ原からはマダガスカルアシナガヨシキリMadagascar Swamp Warblerの美声が響き、いつしか上空をマダガスカルチュウヒReunion Harrierが舞っていた。
▲上がシロガオリュウキュウガモ、下がコブガモ。
▲ようやく探し出したマダガスカルカンムリサギ。
▲マダガスカルチュウヒのメス。英名はレユニオンチュウヒだが。
マダガスカルで観察した鳥類は71種類、キツネザルは5種類。慌ただしい旅程であったが、リヴさんとオリビエさんという優秀なガイドのおかげで、まずまずの成果を残すことができ、充実した旅となった。ありがとうございました。