2010年 9月のフィールドノートから

*9月21日 奄美市某林道

 アマミノクロウサギというと動きが鈍重なイメージがあるが、なかなかどうして巧みに急斜面を登る。この夜、林道を走っていたら、一頭のクロウサギに出会った。慌てたクロウサギはどうしたわけか、なだらかな斜面のある側ではなく、反対側のほぼ垂直に近い角度に切り立った側に逃げ込んだ。そっちにいったら、行き止まりでしょうと思っていると、崖の下でしばし思案したクロウサギは(写真1)、勢いをつけて後ろ脚をキックして体を持ち上げ(写真2)、またたくまに5メートルほどの崖を登っていったのだった(写真3)。強靱な脚力と鋭い爪のなせるわざであろう。間違っても、クロウサギに蹴りを浴びせられたくないな、と実感。

▲写真1:崖下で思案するアマミノクロウサギ
▲写真2:後ろ脚で思い切り自分の体を蹴り上げる
▲写真3:鋭い爪で体を保持して、急斜面をどんどん登っていく

9月27日 瀬戸内町油井岳

 林床の調査をしていると、偶然洞窟を発見。入口に立つとかすかに異臭を感じる。この臭いには覚えがある。オリイコキクガシラコウモリの糞の臭いだ。車に戻り、ヘッドランプを装着して洞窟に入る。防空壕の跡なのだろうか? V字型に曲がった洞窟の長さは20メートルほどしかなく、入口とは反対側に出口がある。短い洞窟だが、足元が泥のうえに、崩落した土壁が積もっており歩きにくい。壁には私のニガテなカマドウマもたくさん貼り付いているし……。

 洞窟の一番深い部分、つまり道が屈曲した部分にいました、オリイコキクガシラコウモリ。その数は100頭くらいだろうか。しばし観察していると、突然の闖入者に安眠を妨げられたコウモリたちはいっせいに飛び立ってしまう。そいつらが頬や頭をかすめ、なんともこそばゆい感触でございました。

▲天井に密集したオリイコキクガシラコウモリ。すでに何頭か飛び始めている。