2011年 3月のフィールドノートから

3月8日 奄美市鳩浜

 名瀬近郊の山にどんな生き物が生息しているか調べるために、森林総合研究所九州支所により自動カメラが設置されている。そのカメラのフィルム回収と電池交換を現地在住の私が任されているわけであるが、自動カメラを設置するためのケースがときおり小動物により占拠されることがある。一番多いのはアリで、ケースの中で巣を作って卵まで産んであると、立ち退いてもらうのが気の毒になる。コバネコロギスや森林性のゴキブリ類もよく利用しているが、彼らには速攻退去をお願いしている。この自動カメラケースのひとつに去年の秋くらいからアマミアオガエルのメスが無断で住み込むようになった。最初は追い出したのだが、ひと月後にはまたちゃんと戻ってきていた。もう一度追い出したが、やっぱりまた次回の見回り時には戻ってきていた。それ以降追い出さないようにしたら、すっかり居着いてしまったのだ。今回もカメラを外してみると、いたいた。しかし、アマミアオガエルといえばいまが繁殖期のはずである。近くに水辺もないし、こんなところでリラックスしててよいのだろうか?

▲自動カメラのケースにすっかり居候状態のアマミマオガエル。

 3月にもなると森は徐々に新緑に輝き、花も一斉に咲き始める。そんななか、真っ赤な若葉でひときわ存在感を主張しているのがアカメガシワだ。自然の造形美、森の中でこのハート形の葉っぱを観るたびに、春の訪れを感じるのである。

自然からの贈り物のハート模様

3月26日 龍郷町秋名

 奄美は毎年ヤツガシラが通過しており、春の渡りは早い個体で2月から遅い個体で4月までだらだらと続く。おおむね3月中旬がピークであり、今年もいくつも情報はあった。しかしオオトラツグミさえずり一斉調査前後は忙しくて観に行くことができず、今年は諦めていた。それよりも、これもまた今春はいくつか情報のあるクロウタドリを観に行こうと、オオトラツグミの補足調査の帰りに車を走らせた。クロウタドリにはまんまと振られ、しかたなく近くの秋名の水田地帯を覗いていると、農道の路肩から黒と白の派手なストライプを翼にまとった鳥が飛び出してきた。この模様は他に間違えるものがいない。ヤツガシラだ。ヤツガシラは車の20mほど先の舗装道路に降りると、威嚇のためか、冠羽を立てている。ごそごそとカメラを取りだしたときには時すでに遅し。冠羽はすっかり畳まれ、すました顔をしている。その後も残念ながら冠羽は立てなかったが、さほど人を恐れず、じっくりと観察させてくれた。

飛ぶと翼の白黒ストライプが非常に目立つヤツガシラ