2009年 9月のフィールドノートから

9月6日 奄美市三太郎峠

 涼しくなるとハブの出現率が上がり、目撃数も増える。アマミヤマシギの調査ルートでもときおりハブを見かけるようになった。本日のハブは1メートルを少し超えるくらいのサイズだったが、どうやら食事の直後だったらしく、腹部が異常に膨れていた。ネズミでも丸呑みしたのだろうか。お腹が重そうなので動きも鈍く、そばまで近づいても逃げようとしない。それでもカメラを向けると鎌首をもたげてくる。さすがに至近距離まで近づく勇気はなかった。

▲腹部が膨れた金色のハブが気配に気づいて鎌首をもたげた

9月11日 奄美市東仲間

 昨年豊作だったモダマの豆がぼちぼち落ちる頃だと聞いて、仲間ふたりと一緒に探しに出かけた。6月くらいまで青々としていたモダマの巨大な莢はいまではすっかり茶色に変色している。青いものも散見されるが、それは総じて小さく、今年の新しい豆のようだ。で、去年の豆をよく見ると、莢の外側の分厚い皮は剥げ落ちて、まるでバナナの皮のように黒ずみ丸まって地面に落ちている。つまりまだぶら下がっている茶色の莢は内側の薄皮のようなものだと思われる。頑丈な外の皮がはがれてしまっているので、きっと落下した豆もあるはずだと期待して、地面を探す。するとありました! 豆が4つに薄皮の莢のままなのがひとつ。思わぬ収穫である。さらに仲間のひとりが面白いものを見つけた。地面に落ちたモダマの豆が発芽していたのだ。豆からは根が出ており、別の部分からひょろっと2mほど芽が伸びている。この豆が無事に実をつけるまで、まだまだ多くの年月がかかるだろう。

 場所を移動し、同じくマメ科のイルカンダの種子を探しに行く。イルカンダの花粉を主に媒介するのはオオコウモリと言われており、その動物がいない奄美大島では受粉率が低いのか、豆はあまり見かけない。それでも落葉に混じって莢がぽつんぽつんと落ちており、種も落ちているのではないかと期待を抱かせる。残念ながら種は発見できなかった。その代わり、もうひとりの仲間がぶらさがったままのイルカンダの青い莢を見つけたのだ。初めて見るので嬉しい! あの豆はいったい誰が受粉させたのだろう? ネズミか鳥か虫か……奄美の森にはまだまだ謎がたくさんある。

▲拾得したモダマの莢(小さめ)と豆
▲発芽したモダマの豆
▲モダマよりはかなり小さいイルカンダの実がぶらさがっている

9月25日 奄美市朝戸峠

 アカハラダカの渡りも終盤戦。すでにピークは過ぎたようで、あまり大きな群れは現れない。数十クラスの群れが何度か頭上を通過していく。アカハラダカの翼下面の白黒パターンは秋空によく映える。タカの観察が終わった後、野鳥の会のM氏がアマミキムラグモの巣を知っているというので、教えてもらう。以前から気にはなっていたが、自分ではまったく見つけることができなかったのだ。M氏が指差したのはなんでもない赤土の斜面の苔むした一角。目を凝らすと、たしかに苔の中に丸く切り取った蓋が見える。なるほどキムラグモの巣の入り口だ。蓋の素材はクモの糸であり、めくってみると中に立派な巣穴がある。日中はこの穴の奥でじっとしているのだろう。今度はぜひ、クモ本体にお目にかかりたい。

▲秋空を舞うアカハラダカの小群
▲崖の斜面に開いたアマミキムラグモの巣穴