2012年 4月のフィールドノートから

*番外編*4月2日~7日 小笠原諸島

 2011年6月に世界自然遺産に登録された小笠原に行ってみようと思い立った。小笠原に足を踏み入れるのは27年ぶり。以前はのんびりした島だったが、現在はどうなのだろうか。竹芝桟橋から「おがさわら丸」に乗り込み、翌朝から甲板に出て鳥を探す。すでに鳥島は後方遥か遠くの洋上だが、それでも1羽のアホウドリが船尾の後方についている。やがて北の島が見え、聟島列島に近づいたころから鳥の数が増える。コアホウドリ、クロアシアホウドリ、カツオドリ、オナガミズナギドリ、オーストンウミツバメなどを堪能していると、船尾に白い鳥が。アオツラカツオドリだ! 船に接近し並走してくれたので十分に観察できてラッキーだった。

 竹芝から25時間半で、ようやく父島の二見港に着岸。すぐさま今度は「ははじま丸」に乗り込み母島へ向かう。父島と母島の間は、出産期である11月から4月の間はザトウクジラがたくさん出現する海域になっている。2時間10分ほどの航海中に3頭ほどのザトウクジラを確認した。オナガミズナギドリとカツオドリも多い。新発見されたオガサワラヒメミズナギドリはいないかなと淡い期待をかけていたが、シロハラミズナギドリもセグロミズナギドリも観ることはできず。

▲「おがさらわ丸」と並走(?)するアオツラカツオドリ。
▲この海域にはオナガミズナギドリが非常に多い。

 母島の印象は27年前とあまり変わっていない。人口が少なく、のどかな島である。タコノキ、モモタマナ、オガサワラビロウ、テリハボクなどの在来種とガジュマル、ギンネム、リュウゼツラン、コモチクジャクシダなどの外来種が一緒くたになったブッシュからはウグイスやメジロの声が聞こえてくる。ウグイスはハシナガウグイスで、メジロはシチトウメジロとイオウジマメジロの交雑種だ。天然記念物メグロも数は多い。あまり人をおそれず、すぐ近くまで寄ってくるので、とても観やすい鳥だ。少なくとも母島では四半世紀の時間的な隔たりを感じなかった。

 しかし、父島に戻ると、様相は一変する。二見港には連日「にっぽん丸」や「パシフィック・ヴィーナス」などの豪華客船が碇泊し、観光客がショッピングやホエールウォッチングを楽しんでいるのだ。明らかに世界遺産効果であろう。飛行場のない小笠原は船でしかアクセスできないが、こう頻繁に豪華客船が寄港しているとは予想外だった。民宿の親父さんの話では1年前に比べて観光客は4~5倍に増えている印象だという。つまり状況は激変しているわけで、少々心配ではある。父島の植生も在来種と外来種のごった混ぜ。この島ではウラジロエノキもリュウキュウマツも外来種だ。山の奥にまでアカギが侵入してしまっているのも気になる。シイやカシなどのブナ科植物を欠く海洋島の小笠原では、巨木はむしろ海岸べりに多い。ハスノハギリ、モモタマナ、テリハボクなどからなる海浜性の樹林は見事だが、山の上は乾性低木が多くてがっかりする。天然記念物のオガサワラノスリは案外ふつうに観られるが、同じく天然記念物のアカガシラカラスバトは声さえ聞くことができなかった。

 今回はホエールウォッチングを兼ねて南島へも行ってみた。ガイド付きで1日100人までという上陸規制がなされている美しい南島は、カツオドリとオナガミズナギドリの繁殖地になっている。別天地のような美しい風景がいつまでも続くことを願うばかりだ。

▲母島ではふつうに観察できるハハジマメグロ。
▲小笠原の固有種で天然記念物のオガサワラアメンボ。父島の水たまりで観察。
▲南島で半化石化した絶滅種のヒロベソカタマイマイと広域普通種のセマダラコガネ。

4月20日 宇検村阿室など

 鳥仲間からキガシラセキレイのきれいな夏羽のオスが出ていると聞き、オオトラツグミ調査の帰りに立ち寄ってみた。教えてもらった阿室小中学校のグラウンドを覗くと、いました。ハクセキレイと一緒にグラウンドの芝の上を歩いて餌を探している。十分に観察した後、もうひとつの鳥情報であるクロウタドリを探しに行くが、こちらは完全に振られてしまった。奄美のクロウタドリはいつも滞在が短い気がする。探している最中にアカショウビンの声を確認。個人的には今季初確認。いよいよ夏鳥の季節がやってきたなあ。

▲校庭の芝の上で餌を探すキガシラセキレイの夏羽オス
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