2013年 7月のフィールドノートから

7月3日 瀬戸内町某所

 梅雨明けと同時に暑い夏の到来。この時期は鳥よりも虫が元気な季節だ。あの虫が出ていないか、とお気に入りの沢へ入ってみた。

 沢の水は冷たく、日陰に入るとひんやり涼しい。暑い日にはもってこいの沢を歩くこと30分。その虫は唐突に目の前に現れた。フェリエベニボシカミキリである。カミキリ類特有の重そうな飛び方で飛んでいる。突然だったので、不覚にも撮影道具を何も持っていない。慌ててビデオをザックから取り出したときには、かの虫はいずこへか飛び去ってしまっていた。ここで待っていれば、また現れるかもしれない。そう考えて待つこと30分、まったく現れる気配がない。目を皿のようにして近くを探すも、それらしい姿はどこにもなかった。

 悔しさを噛みしめながら帰る途中、羽化したての小さなトンボに何頭も出くわす。チビサナエである。以前、フェリエベニボシカミキリと出合ったときにも見た記憶があるので、このトンボ、同じような環境を好むのかもしれない。あのときも新成虫だったことから類推して、チビサナエは梅雨明け後の暑い日の午前中に羽化するのかもしれない。と、足元から茶色いカエルが跳び出した。この跳躍力はアマミハナサキガエル。近づいて写真を撮った直後、大ジャンプの軌跡を残して冷たい沢の底へ潜っていった。

▲羽化したてで黒味のほとんどないチビサナエの新成虫。
▲夜の林道では見なれたアマミハナサキガエルも昼間見ると違って見えるから不思議だ。

*番外編*7月12日 北海道トムラウシ

 久しぶりの北海道。今回の一番の目当はトムラウシ登山。前日、トムラウシ温泉入りして、早朝4時10分に宿を出た。短縮登山口で朝食のおにぎりを腹に納めて、4時30分に登山開始である。ツツドリやコマドリ、メボソムシクイの声に耳を傾けながら、1時間足らずでなんなくカムイ天上に到着。そこからしばらく緩やかな尾根道をたどる。アオジやカッコウの声を聞きながら歩くうちに、コマドリ沢分岐に出る。ここからが難所。ウグイスやミソサザイの声を励みにし、イワブクロやエゾツツジの花で目を休ませながら、雪渓と岩場を急登。前トム平に着いたのが7時過ぎ。雄大なトムラウシ山の姿を目の当たりにして、疲れも吹き飛ぶ。。トムラウシ公園から南沼あたりのハイマツ帯でギンザンマシコを探すも見当たらず、ビンズイがさえずり飛翔を繰り返しているのを目撃。コマクサやミネズオウ、エゾノツガザクラ、チングルマなどの可憐な高山植物を観ながら、山頂にたどり着いたのは9時10分だった。

 大パノラマを眺めてしばし休息。帰路はもっと生き物を探そうと、スピードを遅めて下る。南沼へ降りる岩場でオプタテシケ山から十勝岳、富良野岳へと続く雄大な山並に見とれていると、小さな動物の影が走った。すわナキウサギかと緊張したが、エゾシマリスだった。ハイマツの実かなにかを食べている。南沼野営地で再びギンザンマシコを探すが見当たらず、ノゴマとなぜかキビタキを発見。ギンザンマシコに会うためには、やはりヒサゴ沼あたりで一泊すべきだったかなと反省しながら、あとはひたすら下山。短縮登山口まであとわずかというところで、シラフヨツボシヒゲナガカミキリのオスを発見。撮影して駐車場に戻ってきたのは13時50分だった。

▲イワブクロ
▲エゾツツジ
▲トムラウシ公園付近からのトムラウシ山の眺望
▲コマクサ
▲ミネズオウ
▲南沼、オプタテシケ山、十勝連山のパノラマ
▲食事中のエゾシマリス
▲シラフヨツボシヒゲナガカミキリ(♂)

7月27日 宇検村湯湾岳

 梅雨明け以来雨の降らない奄美大島だが、湯湾岳の駐車場よりも上は雲霧帯に入っているので、常に湿り気がある。今朝も霧の中の林はしっとりと濡れている。落ち葉の間をよくよく探すと、ヒナノシャジュジョウ、シロシャクジョウ、クロムヨウランなどの腐生植物がひっそりと咲いている。やはりこの森の豊さは半端ではない。アマミアラカシの倒木に10頭以上のスジブトヒラタクワガタがついていた。一度にこれだけの個体を観たのははじめてのこと。出現のピークなのかもしれない。

▲林床にひっそりと咲くヒナノシャクジョウ
▲一本の倒木に10頭以上のスジブトヒラタクワガタがつき、樹液を吸っていた