2024年 8月のフィールドノートから

*番外編:8月18日28日 モンゴル

 山階鳥類研究所の助成金をいただき、モンゴルでのバンディング調査(モンゴルではバンディングではなく、リンギングと呼ぶ)に参加するという貴重な体験をさせていただいた。ステーションがあるのは、モンゴル西部のホブドの郊外。アルタイ山脈の麓にあたり、中央アジアからヨーロッパにかけての鳥が生息している場所だ。ステーションといいながら、リンギング作業も食事も睡眠もすべてゲルの中。トイレはもちろん、飲料水以外は川の水を煮沸して使い、電気はソーラーパネルで賄える分のみ使用できるというなかなか過酷な環境だったが、日本では珍しい部類のムジセッカ、アカマシコ、マミジロタヒマリ、ヤツガシラなどが捕まり、さらにヒメイタイムシクイやイナダヨシキリ、コノドジロムシクイ、バフマユムシクイ、ズオアホオジロなど日本では超珍鳥と呼ばれる類の鳥も多く捕まり、勉強になった。リンギングのことは報告書として正式に提出するので、ここではモンゴルで観察した野鳥を中心に紹介したい。
 8月19日、ウランバートルに着いた翌日は終日時間があったので、ガイドをお願いして、ウランバートルの宿から車で片道2時間弱の場所にあるホスタイ国立公園にバードウォッチングに出かけた。ウランバートルから一路西へ進み、舗装道路を外れて南へ。モンゴルでは道が舗装されていない(というかどこが道だかよくわからない)ことは日常茶飯事で、車は(トヨタ車の中古車、しかもプリウスが圧倒的に多い)土煙を巻き上げながら乾燥した砂礫地をひたすら進むため、すぐに砂埃で汚れてしまう。さて、未舗装道路に入ったとたん、そばの草地から鳥が飛び出し、電線に止まった。さっそく見慣れない鳥で、最初はヒバリの仲間かと思ったがまるで違った。嘴が太めなのでアトリ科かあるいはホオジロ科かと頭を悩ませながら図鑑をめくるが、当てはまる鳥がいない。と、尾の先に白い斑があり、胸がかすかに黄色いことに気づく。イワスズメというスズメ科の鳥だと判明した。その後、アカモズ(亜種カラアカモズか?)、オオノスリ、ヤツガシラなどを観ながら、国立公園のエントランスに到着。料金を払って中に入ると、道はますます悪くなるが、日本に留学経験があるというガイドのザリさんは果敢に進んでいく。と、道の両側に哺乳類の姿がちらほら現れるようになった。地元でタルバガンと呼ばれるシベリアマーモットというリス科の動物。ペストの媒介者にもかかわらず地元では食用にするらしく、絶滅危惧種となっている。しばらくするとサバクヒタキの仲間が飛び回っては電線に止まっている。秋のこの時期、サバクヒタキの仲間は非常に識別が難しいが、おそらくイナバヒタキだと思われる。別の電線には小型の猛禽類が止まっている。アカアシチョウゲンボウかチゴハヤブサカと思って双眼鏡で覗くと、ヒメチョウゲンボウだった。ホスタイ国立公園は野生のモウコノウマが生息している。といっても、一度野生絶滅したものを飼育下で増やして放獣したわけだが。最初はなかなか見つからなかったが、まあまあ近くに固まっているのを観ることができた。

最初はなんの鳥だかわからなかったイワスズメ
巣穴から顔を出したシベリアマーモット
イナバヒタキと思われる
ヒメチョウゲンボウ
野生のモウコノウマの群れ

 8月23日、この日はリンギング調査をやめて、全員でバードウォッチングをすることに。最初に向かったのはハイイロペリカンの保護区になっているというハル・ウス湖。電線に無数のショウドウツバメが並ぶダートの道を湖に向けてひた走る。途中でモンゴルカモメとオオズグロカモメ、オニアジサシやハイイロガンの小群を何度か目撃。湖に着いて双眼鏡を構えると、湖面にはアカハシハジロやメジロガモなどが確認できた。少し場所を移動して展望台からハイイロペリカンを探す。遠くに白い水鳥の姿があったので、スコープで覗くとオオハクチョウだった。サカツラガンやアカツクシガモ、ヨーロッパチュウヒなどを観ていると、モンゴル人カメラマンのジャギーさんがなにやら見つけたようだ。ペリカンかと思ってスコープを覗くと、小さなカモの姿が。カオジロオタテガモだ。しばらく待ったがハイイロペリカンは現れず、あきらめて場所を移動する。

ハイイロガンはたくさんいた
ハル・ウス湖は水深がさほど深くない

 ハイイロペリカンが現れないので、山岳地帯へと移動。途中の砂礫地で、サバクヒタキ、モウコアカモズ、サケイ、ハシナガサバクガラスを観る。山岳地帯に入って川が出てくると、灌木の林が現れる。そこでうろちょろしていたのはクロジョウビタキ。車で行けるギリギリの場所で下車して、渓谷を渡渉しながら登っていく。上空には時折ヒマラヤハゲワシ、クロハゲワシ、ヒゲワシなどが悠然と空を舞い、林にはさまざまな小鳥たちが。モンゴル人のリーダー、バヤサアに聞くと、チフチャフやオリーブムシクイ、ヤマヒバリだというが、なかなか姿が見えない。高度が上がり周囲が岩山となってきたとき、モンゴル人スタッフのアディアが「Wallcreeper!」と叫ぶ。ついに今回一番観たかったカベバシリが現れた。翼を広げると美しい鳥だが、翼をたたむと岩肌に溶け込み、すぐに見失ってしまう。姿をもっとじっくり拝みたかったなあ。

サバクヒタキ
クロジョウビタキ
高い空を舞うヒマラヤハゲワシ

 ホブドのステーション近くでは、サバクヒタキ類が多く観られた。識別が難しいが、一番多かったのはセグロサバクヒタキのようだった。ハシグロヒタキやサバクヒタキもいた。他にはアカマシコ、ムナフビタキ、ノドジロムシクイなどが確認できた。網場近くの川ではカワアイサが子育て中だが、空気にはすっかり秋の気配が漂っている。渡りも日々さかんになり、25日の朝には上空をクロヅルの群れが渡っていった。アルタイ山脈を越えて、南アジアのほうへ越冬にいくのだろう。

sグロサバクヒタキの冬羽
ムナフビタキ
クロヅルの渡り
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