2008年 5月のフィールドノートから

5月3日 大和村宮古崎

 昨年のいまごろシロハラホオジロを観た林に、今年は何か来ていないかと期待してやってきた。宮古崎は車では行くことができないので、最低でも25分ほど歩かなくてはならない。途中サンコウチョウの声を聞き、アカショウビンの飛翔する姿を目撃。夏鳥は今年ももう渡ってきている。目指す林でヒタキを一羽発見。慌てて双眼鏡でのぞくと、飛び去る前の後ろ姿を一瞬確認できた。おそらくオオルリのメスだと思う。奄美大島はオオルリの渡りのメインルートからはずれているのか、渡りの時期にもあまり観られることの少ない鳥だ。以前も一度ゴールデンウィークにオスを観たことがあるので、わずかながら通過している個体はいるのだろう。ただ、あの美しい声を押し殺してそっと奄美の大森林の中に紛れ込まれては、見つけ出すのが困難なのである。案外このようにして人知れず渡っている野鳥は多いのかもしれない。

 数時間粘ったが、オオルリらしきヒタキが再度姿を見せることはなく、ホオジロの類もいない。あきらめて引き返す途上でトックリを逆さにしたような形と大きさの奇妙な構造物を目がとらえた。コガタスズメバチの女王蜂の巣である。現在は単独営巣期で、女王一匹でこのような美しい形の巣を作るのだ。このあと働き蜂が羽化すると、一気にバスケットボールくらいの大きさまで大きくなる。独特の波模様の入った群れの巣もいいけど、このトックリ形の女王の巣も造形的にはお見事。

▲360度パノラマ合成した宮古崎の全景。全体がリュウキュウチクに覆われている奄美には珍しい笹原。
▲素焼きのトックリを逆さにしたがごとき姿のコガタスズメバチの女王の巣

5月6日 奄美市喜瀬、手花部

 先月4月8日のフィールドノートにも登場した喜瀬の隠れ浜へ行ってみる。一年で最も昼の潮位が下がるとあって、浜はすっかり顔を出している。ゴールデンウィークと重なったために家族連れの行楽客ですでにいっぱい。大人はものめずらしそうに浜を散策し、子どもは水着に着替えて泳ぎ始めている。立夏を過ぎて、すでに夏の光景である。 

 しばし幻のビーチを楽しんだ後は、手花部の干潟に移動して潮干狩。あちらこちらに夕食のネタの二枚貝を掘り出している人の姿があるが、こちらの狙いはそれではない。捜すこと数分、目当てのミドリシャミセンガイを見つけることができた。一見貝(軟体動物)のようであるが、かつて地球上で栄えていたのに現在はその勢力を失った遺存種の腕足動物の仲間である。捜すこつさえ覚えれば、案外たくさんいることがわかる。今回はあまり大きな個体は見つからなかったが、まだこの貴重な生き物がたくさんいることが確認できて、ひと安心。ほかにもミナミコメツキガニやオフェリアらしきけったいな生き物も確認。干潟はいろいろな生き物の宝庫。

▲すっかり姿を現した幻の隠れ浜とそこで遊ぶ行楽客たち
▲腕足動物のミドリシャミセンガイ

5月17日 宇検村屋鈍

 奄美大島の南西端にあたる曾津高崎にて標識調査。地理的な環境から考えて、渡りの時期にはいろいろな鳥が通過しているのではないかと想像できるが、なにしろ名瀬から遠いので、実際のところほとんど調べられていない。近くに住む後藤さんが面白そうだと耳打ちしてくれたので、やってみることにした。

 6時から17時までの調査で、夏鳥のサンコウチョウやアカショウビン、留鳥のヤマガラ、メジロ、アカヒゲなどが捕まった。奄美で夏場に標識調査をやる場合の常連たちである。鳥の数はかなり多いようだが、さすがにもう渡りのピークは過ぎてしまったのかもしれない。もう少し早い時期に、あるいは秋にやると、渡りの実態に迫れるかもしれない、という感触を得る。

 標識調査には待ち時間がつきものであるが、今の時期はいろいろな昆虫がいるので退屈しない。アカメガシワの花にはオオシマヒラタハナムグリ、葉の上にはリュウキュウルリボシカミキリ、地面にはビロウドサシガメ……目を凝らせばいたるところに昆虫がいる。気持ちのよい奄美大島の初夏の午後。

▲バードウォッチャーあこがれの鳥、サンコウチョウ(亜種リュウキュウサンコウチョウ)も奄美の夏にはごく普通の鳥。
▲奄美大島と徳之島に分布するオオシマヒラタハナムグリのオス。オスは多いが、メスはなかなか見つからないらしい。
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