2001年 6月のフィールドノートから

6月3日(日)薄曇 笠利町大瀬海岸

 だらだらと長く続いたシギチのシーズンももう終わりか。数が極端に減っている。メダイチドリ、トウネン、キョウジョシギ、コアオアシシギ、キアシシギ、オグロシギ、セイタカシギ、ツバメチドリ。それぞれが1羽~2羽程度、広い干潟で餌を探している。数が比較的多いのがシロチドリで、普段は聞かないようなさまざまな声色を使ってさかんにディスプレイをしている。

 シギチに代わって、干潟の主役はアジサシになった。コアジサシに混じって、2羽のエリグロアジサシ、5羽のクロハラアジサシが右へ左へと上空を飛び回っている。すでにベニアジサシやハジロクロハラアジサシも観察されている。夏だ。

 体の大きいクロハラアジサシは時折悠々と羽ばたいては餌を見つけて下降する。急降下というほどすばやい動作ではなく、えいっと地面に降りて浅瀬の餌を拾い上げる感じ。岩と砂が半々に混じった大瀬の干潟で急降下などしたら、嘴を傷つけてしまうだろう。ピリッ、キリリッと甲高い声を立てて2羽のコアジサシが追いかけっこをしている。後ろのヤツは小魚をくわえている。飛びながらの求愛給餌か、はたまた求愛中にメスに逃げられて追いかけているのか?

 そんな光景をボーッと眺めていると、目の前をアカボシゴマダラがひらひらと通り過ぎていった。いいなあ、この感じ。

▲餌を見つけたのかな? クロハラアジサシ

6月13日(水)晴れ 龍郷町某林道(夜間)

 梅雨の合間の晴れ。気温が高く、異常に蒸し暑い。こんな日は林道にカエルがたくさん出てくるはず。カエルウォッチングに出かけることにした。

 リュウキュウコノハズクが鳴く林道をしばらく進むと、頭上に赤い塊が見える。アカショウビンが眠っている。ライトを当てても逃げない。ひとり車中で、片やライトを当てながら、片やビデオを回すのは決してラクではない。ロスの多いテープであるが、それでもなんとかアカショウビンの寝姿を収めることができた。

▲寝姿と思いきや、すっかり目覚めてますか…。ライトがずれているのがご愛嬌。

 車を進めるにつれ、林道が湿ってくる。側溝からあふれた流れが林道上を小川のように流れている。いよいよカエルポイントだ。最初に鳴き始めたのは、リュウキュウカジカガエル。リュウキュウカジカは妙に白っぽく小柄だ。その向こうにはきれいなイシカワガエルが一匹。そばに長い影が…アカマタだ。その先にはガラスヒバァの姿も見える。カエルが多いところには捕食者のヘビも多い。それは当然のこと。

 オットンガエルがいないかなあと、先を急ぐ。すると、いました! 道の上にデンと構えていらっしゃる。この迫力のある姿こそ、オットンガエルじゃありませんか! 車を降りて撮影していると、右手の水溜りから大きな鳴き声。低くうなるように、オゥ、オゥ、トゥン! オゥ、オゥ、トゥン! わかっていてもこのオットンガエルの声は気持ち悪い。思わず跳び下がると、足元にハブが…。幼蛇とはいえ、立派に毒を持っている。誤って尻尾なんか踏まなくて良かったと胸をなでおろしながら、ハブを怒らせないように車に戻る。カエルが多いところにはホント捕食者のヘビも多いのである。

▲今晩の主役のオットンガエル。味噌汁にすると美味いと聞いたけれど…本当?

番外編 6月19日(火)~25日(月) 北海道(道北・道央)

 梅雨で蒸し暑い奄美を脱出し、北海道へやってきた。6月の北海道には梅雨もないし、新緑が美しい。常緑樹の重たい緑に慣れた目に映る、落葉樹の透き通るような新緑が何と鮮やかなことか。この季節は鳥たちの子育て、巣立ちの時期でもあり、バードウォッチングにはベストシーズンだ。サラリーマンをやっていると、なかなか休みが取れない6月。20回目の北海道にして、初めて初夏の北海道に来ることができた。

 前半は先輩と一緒に道北を回る。オホーツク海沿いの原生花園を中心に、草原の鳥を狙う。まずはベニヤ原生花園。道北浜頓別町に位置するこの原生花園は丁度花期を迎えたスズランの名所。足元には可憐な花、その向こうには荒涼とした原野が広がる。6月だというのに最高気温が8℃。奄美の冬の最低気温並みだ。シマセンニュウやエゾセンニュウ、コヨシキリが寒さに震えるように鳴いている。

 続いて紋別郊外のシブノツナイ湖を訪問。湖面には20羽を越すスズガモの群れが泳ぎ、その上をかすめるようにハリオアマツバメが舞う。ここはシマアオジが目的。どうやらシマアオジは数が減っているらしく、どこでも簡単に観れる鳥ではなくなっている。丈の低い草原を歩き、オオジュリンやノビタキ、ノゴマの囀りを聞きながら、しばらく歩いていると、出てきました、主役のシマアオジ。腹面の黄色と背面の栗茶色のコントラストがホント綺麗な鳥だ。

 声はすれども姿が見えぬマキノセンニュウは、ここよりもサロマ湖畔のワッカ原生花園の方が数は多いと、シブノツナイ湖で会ったバーダーに聞く。その情報を信じワッカへ向かう。ユスリカの仲間だろうか、非常に双翅目の昆虫の多い場所だが、その分餌は豊富な訳で、なるほどあちらこちらでマキノセンニュウの声がする。能天気に表に出てムシのようなか細い声を響かせている個体もいるではないか。ようやく観られた。叢に分け入りカメラを構えているバーダー発見。マキノセンニュウ狙いかと思うと、さにあらずアリスイだという。大胆にも標識の柱木に営巣しているのだ。待つこと5分。1羽のアリスイが飛来し、入れ替わりに巣の中にいたアリスイが柱の中から顔を出した。

▲原生花園で最も通る声の持ち主コヨシキリ
▲観づらくなったシマアオジ
▲珍しく表に出てきたマキノセンニュウ。それにしてもムシの多いこと…
▲巣穴から顔を出したアリスイ。この柱、標識なんですけど。

 後半は先輩と別れ、ひとりレンタカーを借りて帯広を中心に回る。旅行前半の低温注意報が嘘のように晴れ渡り、まさに爽やか北海道。ドライブ日和である。

 まずは帯広市内の緑ヶ丘公園へ。ここでコアカゲラが繁殖しているというので行ってみたが、もう遅かったのか、姿は見えない。キョッキョッという声はアカゲラのヒナ。大きくなってさかんに巣穴から顔を出し、親を呼んでいるのだ。数日のうちに巣立つだろう。とにかく巣立ちビナが多く、ニュウナイスズメ、アオジ、アカハラなどのヒナにあちらこちらで遭遇する。

アオジやアカハラは奄美では普通の冬鳥だが、こんなところで繁殖しているんだ。ひょっとしたら奄美で冬を過ごした個体もいるかもしれない。そんなことを考えながら、感慨を新たにしていると、目の前にコルリが飛び出した。

 続いて糠平&然別へ。新緑の中を散策。ゴジュウカラ、ヤマゲラ、ルリビタキなどを姿や声を見聞きしながら歩いていると、ようやく会えました、コアカゲラ。雄だ。すぐ目の前の木に飛んできて15秒ほど周囲を見渡し、こちらの姿に気がついたのだろう、そそくさと飛び去った。今回の目標はマキノセンニュウとコアカゲラだったので、これでひと安心。近くの岩場に見慣れぬタテハチョウの姿。南日本ではまず観ることのないコヒオドシであった。

 目標をクリアして気持ちに余裕ができたところで富良野の東大演習林に。熊に注意の看板がやたらと多く、腰が引けてしまう。それでもキビタキ、センダイムシクイ、ヤブサメなどの声を聞きながら4.2kmの周遊コースを歩き、樹海の一端を垣間見る。エゾマツ主体の暗い林床からエゾアカガエルが飛び出し、さらに歩くとトラツグミの幼鳥が6羽ほど次々と飛び出してくる。微笑ましい光景だ。

 結局、かすかに期待していたクマゲラは出てこず。20回連続でふられているのだが、それもまたよし。見残しがあるってことは、また来れるってことだ。

▲思い切り尾をあげて自己主張しているコルリ
▲糠平の天宝山にいたコヒオドシ
▲足元から飛び出したエゾアカガエル
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