2002年 6月のフィールドノートから

番外編 6月1日(土)晴れ 千葉県印旛沼→茨城県波崎漁港→千葉県銚子漁港

 このところ千葉県印旛沼で毎年サンカノゴイが観察されていると聞き、4月に奄美に来島された土方さんの案内で観に行くことになった。ところが、(東京に出てくるといつもそうなのだが)前夜飲み過ぎてしまい、待ち合わせに2時間も遅れてしまう。それがたたって、なんとか電車で駆けつけたときにはすでにサンカノゴイの朝の採餌は終わった後。広い水田をいくら見渡しても巨漢のサギの姿はすでにない。時折沼のそばの葦原から太い鳴き声が聞こえるのが恨めしい。オオヨシキリの鳴き声が暑苦しく響く中、田んぼの脇の草にコジュリンがとまったり、水路上をヨシゴイが飛ぶのをぼーっと見つめる。こうなったらサンカノゴイが出てくるまでひたすら待とうかと覚悟を決めたとき、土方さんが魅力的な代案をボクの耳に囁いた。

「実はね、銚子・波崎のほうでアメリカズグロカモメとワライカモメが出ているんですよ!」

 いずれも観たことのない珍鳥。どうしようかと迷っていたら、運良く一羽のサンカノゴイが葦原から飛び出して、遠くの水路に降りていった。ビデオにこそ撮れなかったが、一瞬でも目撃できたからよしということにして、波崎に向かう。

 波崎では大勢のバードウォッチャーが珍カモメの飛来を待っていた。その中にはあまみちゃんこと奄美野鳥の会の吉沢夫妻の姿も。情報を得て朝から待っていらっしゃったらしいが、残念ながら今日はどちらのカモメも出ていないとのこと。朝印旛沼でサンカノゴイを堪能した後、こちらに回ってきた先人もおり、その方が撮影されたビデオを拝見したが、実になんとでかいこと! フレームには顔しか収まりきれず、それさえもはみ出ている有様なのだ。ボクが観た飛翔影とはえらい違い。再び悔しさがこみ上げてくる。それでも珍カモメが観れればよいと、自分に言い聞かす。

 波崎は難しそうだと判断し、利根川をはさんで対岸の銚子へ、文字通り河岸をかえる。こちらには波崎を上回る鳥見人の群れ。中には写真家の真木さんや、大学の後輩の私市くんもいる。しばし雑談するともう帰らねばならない時間に。結局、波崎と銚子ではユリカモメを見ただけだったが、数多くの鳥友に会えてそれなりに満足な一日であった(ということにしておこう)。

▲印旛沼名物サンカノゴイ。この写真は翌日、あまみちゃんこと吉沢さんが撮られたもの。観たかったなあ。

6月27日(木)晴れ 湯湾岳周辺

 ひと月近くも留守にすると、奄美の森が恋しくて仕方なくなる。今日は梅雨の合間の晴天なので朝から湯湾岳へと行ってみた。一ヶ月ぶりに山頂に登る。下界ではとうに花期が終わったイジュがここではまだ咲いている。サンコウチョウやズアカアオバトの声を聞きつつ、薄暗い森を掻き分けながらくだる。突然足元から大きな鳥がばたばたと飛び出す。不器用に飛び去った方向を唖然として眺めていたら、またもう一羽。アマミヤマシギだ。夜行性の鳥を昼間観るのは、なんだか休日に私服の先生に会うみたいでばつが悪い。考えすぎか。

 近くのお気に入りスポットへ向かう。ルリカケス、アカヒゲなどがさかんに鳴いている林を抜けて、観察ポイントに着く。足元から今度は小さな影がぴょんと跳ぶ。アマミハナサキガエルだ。このカエルも本来夜行性なので、こんな時間にはあまりお目にかからない。夜行性のカエルを昼間観るのは、なんだかすっぴんのホステスに会うみたいで照れくさい。が、ちゃんとビデオに収めた。

 ここには岩場があるのだが、気の早いアマミイワウチワが一輪、花を咲かせているではないか。奄美固有種の可憐な花ももちろんビデオに収めた。

▲こうして見ると周囲のコケに同化したような色合いのアマミハナサキガエル。
▲気の早いアマミイワウチワが岩陰にひっそり咲いた。

6月29日(土)晴れ 宇検村赤土山

 夜の林道でヒャンを発見。体長は50cmくらいと小さいが、れっきとした親。この美しいヘビはコブラ科に属し、ハブの比ではない強力な毒を持っている。もっとも口が小さく、かまれることは事実上ないため、20cmくらいの距離まで近づいて撮影を行う。

▲奄美大島周辺にしかいないコブラ科のヒャン。