2002年 1月のフィールドノートから

1月7日(月)晴れ 笠利町宇宿農耕地

 前日、高さんよりマガン渡来の情報を聞き、さっそく行ってみた。場所は宇宿の農耕地、ガンというと稲刈りが終わったあとの田んぼで餌をついばんでいるようなイメージが強いが、この地域には稲田はない。牧草地や休耕地を中心に見て回るが、目指す姿は見つからない。干潟に出たかと、大瀬海岸に行ってみても見当たらない。去年のヒシクイは空港敷地内の滑走路のそばの草原を餌場にしていたので、今年のマガンもそうかと思い、車を走らせていたら、空を飛ぶガンのシルエットを発見。鳥影は意外にもサトウキビ畑に舞い降りた。

 マガンはサトウキビの若い苗が植わった畑で、畝と畝の間に生えた雑草を食べているようであった。堂々とした体を揺らして畑の中を練り歩くマガンの姿はなかなかにユーモラスである。

▲警戒心の少ない個体だが、さすがに近づきすぎたのか首をあげて周囲を探っている。

1月11日(金)―16日(水) 希少野生動植物種保護増殖事業*アマミヤマシギ捕獲

 11日夜の市理原での失敗で幕を開けたアマミヤマシギ捕獲作戦は、12日・13日両夜の曽津高崎でも連敗し、場所を移した14日夜の湯湾岳も徒労に終わった。4夜連続の捕獲ゼロという思わぬ苦戦で疲れがピークに達した15日の朝、ようやく1羽の鳥がかすみ網にかかった。

 目的のアマミヤマシギではないものの、同じ希少種仲間のオオトラツグミだ。慎重に網から外して、手に取る。こうして自分で触ってみると、この鳥の大きさに改めて驚かされる。同じツグミ科の鳥でも同時にかかったシロハラよりは優にふた周りはでかい。足環をつけて、計測。尾羽の数は12枚。間違いなくオオトラツグミであることを確認したうえで、放鳥する。この朝は他にもアオバズクやルリビタキがかかった。とりあえず鳥がつかまったことで気持ちに余裕が生まれた。最終夜に期待をつなぐ。

 ところが朝から続いていた小雨が徐々に強くなり、肝腎の夜には本降りとなってきた。ずっと晴天続きで乾燥気味だったことがヤマシギの出を悪くしていたんじゃないか、今夜はウェットのコンディションになったのでむしろ期待できるんじゃないかと、無理にも気持ちを鼓舞する。しかしながら、雨が呼び寄せたのはカエルやヒメハブばかりで、目指すアマミヤマシギは姿も現さない。深夜を回り、丑三つ刻を過ぎた頃から風も強くなってきた。じっと待つ身に寒さが堪える。今晩も無理だったかなと諦めかけたとき、最後の見回りに行っていた石田さんと高さんが喜び勇んで帰ってきた。最後の最後にアマミヤマシギが捕まったのだった。

 脚力のある太い足に足環をつけたうえで、計測。さらに首の周りに発信器をくくりつける。最初は気になる様子で、嘴で発信器をはずそうともがいていたが、そのうち観念したようだ。放鳥する頃には開き直ったのか、元気に飛び立っていった。これ以降一年間、継続的にラジオテレメトリ法による行動調査が行われる。謎に包まれたアマミヤマシギの生態が少しでも解明されればと思う。

▲発信器をつけられたアマミヤマシギ

1月19日(土)曇り 湯湾岳

 湯湾岳にコゴメキノエランを観にきた。年末にはまだつぼみだったこの着生ランもきっと可憐な花を咲かせていることだろう。駐車場の付近では早くもヒカンザクラがほころび始め、登山道の途中ではサクラツツジが美しく花弁を開いている。勢い期待がふくらみ、急ぎ足となる。ようやく山頂近くなり、目的地に到着。そしてつぼみを見つけておいたある木に視線を向ける。ない! コゴメキノエランの花ばかりか、株ごとすっかりなくなっているのだ。

 おそらく盗掘されてしまったのであろう。人気のある植物は心ない人間の手によって掘り返され持ち帰られる。自然の中にあってこそ美しい花。個人の庭先で所有されて映えるはずもないと思うのだが、盗掘は後を絶たない。これだから貴重な植物のありかは迂闊に口外できない。幸い、コゴメキノエランは別の株を見つけることができたが、場所は教えられない。

▲可憐なコゴメキノエランの花
▲美麗なサクラツツジの花
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