2005年 2月のフィールドノートから

2月11日(金) 神屋国有林

 森林管理署の許可を得て、天然記念物指定されている神屋の国有林を歩く。奄美大島でも最も奥深く、自然の残った地域のひとつが、ここ神屋国有林である。自然の豊かさは散見されるクロウサギの糞の多さでよくわかる。いたるところという表現がオーバーではないほどたくさんの糞が散らばっている。話によると、ハブの生息密度もとても高いらしい。多種多様な生き物たちが織りなす森林生態系がこの森には十分残っている。林床を一歩一歩踏みしめながら、太古からつづく自然の営みを実感する。自分にとって、心が満たされる瞬間である。こんなに素晴らしい自然が残っていることを、この島に住むほとんどの人が知らないのは残念に思う。

 ひと昔前までは、奄美大島の多くの森林が同じような状態だったのだろう。それが乱開発や公共工事でたちまち危機的な状況に追い込まれてしまった。天然林と呼べる状態のよい森林はいつしかほとんどなくなってしまったのだ。それだけに、こういう森林はなんとしても守っていく必要がある。場合によっては立ち入り禁止にしてでも守るべきだと思う。人だけではない。外来種も排除しなければならない。すでにこの森にもマングースが入っているというし、周辺の道路ではノイヌによるクロウサギ被害があとを絶たない(きょうも2頭の被食死体を目撃した)。すぐにでも手を打つべきである。

▲昼なお暗い神屋の森林。水がたくさんの植物を育み、植物がまたたくさんの動物を支えている。
▲コケ生した樹皮上で見つけたヨコバイの幼虫(種不明)。体長数ミリの昆虫から樹高10数メートルの巨木まで多様な生物が息づく。

2月25日(金) 笠利町奄美パーク

 島外からのお客さんを案内しながらバードウォッチング。先日ムクドリの群れの中にホシムクドリがいたという情報があったので、電線にずらっととまった鳥がいないか注目しながら車を走らせるも、空振り。もしかしたら奄美パークの芝生に降り立っているのではないかと考える。かつてここでムクドリの群れを観たことがあるからだ。

 行ってみてまず落胆。双眼鏡をのぞくまでもなくムクドリがいないことは一目瞭然である。それでも数羽の鳥が芝生の上で採餌しているのがわかる。シロハラにハクセキレイ、ムネアカタヒバリ……1羽だけムネアカタヒバリとシロハラの中間サイズの鳥がいる。双眼鏡のピントを合わせると、ヒバリ? いや、冠羽がないし、羽毛の斑紋のパターンが違ってぬっぺりしている。ヒメコウテンシ? いや初列風切の突出が明らかだし、胸にも縦斑がある。え、コヒバリ? こちらの当惑をよそに、件の鳥は我関せずと餌を探し回っている。よく見るとヒメコウテンシ属にしては胸の縦斑が密すぎるし、嘴が細い。これはやっぱりヒバリ属の鳥である。であれば、珍しいタイワンヒバリの可能性も! 興奮しつつゆっくり近づく。飛んだ! 地鳴きはビュルビュルで、次列風切の羽縁が白っぽい。なんだ、結局泰山鳴動してヒバリ1羽出ただけだった。

▲まったく冠羽を立てないまぎらわしいヒバリ。