2017年 9月のフィールドノートから

9月6日 奄美市名瀬大熊漁港

 ここ数年、奄美大島周辺へのベニアジサシ、エリグロアジサシの飛来が減っている。10年ほど前までは奄美大島周辺にもいくつかベニアジサシの大きなコロニーがあったし、エリグロアジサシもあちこちの岩礁で繁殖していた。しかし、ここ数年は繁殖数が激減し、特にベニアジサシのコロニーは消失してしまった。海流が変わって小魚が減ったのか、それとも人為的な影響か? 原因はよくわからないが、奄美の夏の海の風物詩であったアジサシ類の姿を見づらくなったのはとても残念である。そんな中、いまでも気軽に見られる場所がある。奄美市名瀬の大熊漁港である。カツオ漁船の基地であるこの港では、生餌用の小魚を生け簀で飼っており、その小魚を狙ってサギ類やアジサシ類が飛来するのだ。ベニアジサシとエリグロアジサシは5月下旬くらいにここへやってきて、9月上旬まで滞在する。ぼちぼちアジサシ類がいなくなることかなと思って大熊漁港に来てみると、見慣れないアジサシの姿が。どうやらベニアジサシの幼鳥のようだ。今年もベニアジサシの繁殖は確認できていなかったが、どこか近くで繁殖していたのだとすると嬉しいかぎり。さて幼鳥は上手に生け簀の小魚を捕まえられるだろうかと観察していると、そこへ1羽のベニアジサシの成鳥がやってきた。そしてくわえてきた小魚を幼鳥に与えたのである。かっこうの餌場である生け簀の前まできていながら、親鳥から餌をもらうって……。この幼鳥が無事に生きていけることを祈念したい。

▲生け簀の中をのぞいているように見えたベニアジサシの幼鳥だったが……。
▲結局自力では餌をとらず、親鳥が運んできた小魚を呑みこんだのだった。

9月22日 宇検村田検

 秋の林道にはオオジョロウグモがたくさん巣を構えている。日本最大のクモである本種の巣に使われる糸はきわめて粘着力が強く、ときに小型の鳥やコウモリまで捕まってしまうほど。私も一度、オオジョロウグモの巣にかかってじたばたしているスズメの幼鳥を救出したことがあり。あのまま放っておいたらクモの餌食になっていたはずなのに、いまになっても恩返しはないのはどういうことだろう。車のフロントガラスに貼りついたオオジョロウグモの巣を辟易しながら取り除き、林の中に入ってみると、地面にはいつくばるオオジョロウグモの大きなメスを踏みそうになった。まったく動こうとしないので屈んでよく見てみると、どうやら卵塊を保護しているようである。オオジョロウグモが地面で卵を産むとは知らなかったので、いい勉強になった。

▲卵塊を体で覆うようにしてじっと護るオオジョロウグモのメス。
▲正面から激写。顔の前3センチまで近づいても微動だにしない。