2007年 1月のフィールドノートから

1月19日(金) 笠利町土浜

 今日は旧暦12月1日の新月。潮が大きく引く夜である。かつてこのような夜には島中の海岸のいたるところでイザリの明かりが見れたものだが、最近は禁止になっている浜が多く、めっきり見られなくなった。島民の娯楽のひとつだったのだろうが、海産資源を守るためにはいたしかたのないことなのだろうか。

 さて、今夜前園さんと一緒にここを訪れたのはイザリではなく別の目的のためである。ずばり、サンゴアメンボの観察である。サンゴアメンボ科に属するこの海産昆虫は、満潮時はサンゴ礁の小孔に隠れて海中で過ごし、干潮になると水面に出てきてエサを探すという変わった習性を持っている。今夜は潮位が低いので、この虫を探すにはコンディションがよいのではないか、と予想したのだ。それにしても海面にエサなんかあるのだろうか? 数少ない資料には海面をハエのようなスピードで走ると記されているが、どんな動きなのだろう? 冬の採集記録がないが、この時期にいるのだろうか? 謎ばかり募る。

 潮が引いて露出したリーフ上を歩く。途中でコウガイビルの両端を持ってゴムひもよろしくビヨーンと引き伸ばしたような生き物に遭遇。またリーフのところどころには殻のないアワビのような生物も張りついている。前者はサナダヒモムシ、後者はイソアワモチと、前園さんに教えていただく。海はボクのまだ知らないけったいな生き物の宝庫である。

 リーフエッジに到着し、海水面をライトで照らす。明かりに反応してキビナゴのような小魚が集まり、その上をハエのような小さな昆虫が飛び回っている。さっそくサンゴアメンボ発見か? 金魚網ですくうと、なんのことはない小さなハエの仲間であった。このハエのほかにもガガンボのような虫がたくさん飛んでいる。海にこんなに多数の双翅目昆虫がいるとは知らなかった。なるほどサンゴアメンボはエサには困らなさそうだ、と納得。

 ときおりアメンボが見つかるが、すべてケシウミアメンボである。サンゴアメンボはもう少し大きく、体表を覆う毛で白く見えるはず。しばらく試行錯誤を繰り返していると、前園さんから「採れた」と快哉があがる。駆けつけてみると、たしかに網の中でうごめいている長楕円形の昆虫は、まさに目的のサンゴアメンボである。いるとわかれば、こちらのものである。海面を注意深く探すと、ときおりケシウミアメンボよりも大きく白っぽく見えるものがシュッと横切っていくのがわかる。なるほどこいつか。タイミングを合わせて網を出し、やった捕まえた!

 後脚は丸っこい体の後端寄りから出ており非常にバランスが悪く感じるが、このデザインが水面での高速走行を支えているのだろう。アメンボとしては前脚が大きく、これで獲物をしっかりと掴むのだろうと予想される。えらくカッコいい造形だと思うのだが、いかがなものだろうか?

▲これはオス。前脚の内側にとげがあり、これでライバルと戦うのだろうか。
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