2008年 6月のフィールドノートから

*番外編*6月14日~21日 パプアニューギニア

 奄美野鳥の会の有志5名で、パプアニューギニアへ探鳥行。一昨年のボルネオに続き、2回目の海外探鳥ツアーである。パプアニューギニアという国がゴクラクチョウ(フウチョウ)の島だということは、バードウォッチャーにはよく知られている事実だが、いかんせん、どのような国情なのか、観光ガイドのひとつすらない状況なのでよくわからない。それでも、バードウォッチング・ツアー専門の旅行会社ワイバードに依頼して、なんとか実現にこぎつけた。

 滞在の前半はハイランドの中心都市マウントハーゲンから車で一時間ほど走ったところに建つクルム・ロッジを拠点にして、何種類かのフウチョウを探すのが最大の楽しみとなる。このロッジが位置するのは標高2800mの高地、したがって赤道からそう離れていない熱帯といっても朝夕は冷え、雨が降れば昼でも肌寒さを感じる。奄美大島の冬並みの寒さなのである。ロッジの庭先には餌台が設けられており、パパイヤやパイナップルなどの果実の食べ残しを置いておくだけで、キホオミツスイ、アオガオヤマミツスイ、キクビワインコ、タイワンツグミなど、さまざまな鳥が飛来する。フウチョウ類もチャイロカマハシフウチョウ、オジロオナガフウチョウ、カンムリフウチョウモドキが観られ、初日はこれで大満足。

▲餌台を訪れたオジロオナガフウチョウのメス。結局滞在中オスは一度もやってこなかった。
▲夕方になって鳥が姿を消すと餌台にはクスクスの1種が顔を出す。ネズミのように見えても有袋類。

 二日目から四日目の午前中はそれぞれアオフウチョウ、カタカケフウチョウ、コフウチョウ、フキナガシフウチョウを探す。現地人ガイドマックスたちはとても目がよく、逆光であろうが黎明の薄暗い中であろうが、双眼鏡もろくに使わずに目指す鳥を見つけ出すから凄い。おかげで、目当ての鳥たちはことごとく観ることができた。森林はユーカリとモクマオウが立ち並び、まるでオーストラリアに来ているかのような錯覚に陥る。インドネシアのすぐ南にあるから勘違いしそうであるが、有袋類のクスクスやキノボリカンガルーがいることから考えても判るとおり、ここはオセアニア区なのだ。動物相もボルネオとはまったく違っていて、非常に興味深い。

▲朝ぼらけの中、コフウチョウのオスが求愛ディスプレイを開始した。
▲探鳥をしていると、どこからともなく現地の人々が現れ、最後はこんな状態に。純朴で優しい人々。
▲途中立ち寄った村で拾ったパプアヒラタクワガタのオスの死体。どうせならニジイロクワガタを見たかったな。

 中日の四日目の午後、国内線で首都のポートモレスビーに向かい、後半はここを中心にいくつかの探鳥地を回ることに。ここでのガイドはダニエル。マックスの師匠に当たる優秀なガイドである。まず五日目の午前中はヴァリラタ国立公園を訪れ、アカカザリフウチョウを探すという。午前5時、まだ暗いうちにホテルを出て、車を走らせること1時間、ようやく空が白んできた頃ヴァリラタに到着。さっそくアカカザリフウチョウが鳴いているというので、そのポイントに行ってみる。森の中はまだ暗く、声はすれど鳥の姿はない。ダニエルはおもむろにレーザーポインターを取り出すと、20mほど離れた一本の木を指し示し、この枝にオスが現れると言いきった。待つこと10分ほど、実際にその木のその枝にアカカザリフウチョウの立派なオスが止まった。ほどなくして別のオスが、また別のオスが……次々にオスがその枝に居ついたオスを追い払いにやってくる。やがて近くに複数のメスが飛来すると、オスたちの争いは激しさを増す。勝ち残った一番強いオスがメスを総取りするのだ。かくして1時間ほどのディスプレイ合戦ののち、1羽のオスが勝ち名乗りをあげたのであった。

▲パプアニューギニアの国鳥アカカザリフウチョウのオスは息を呑むほど美しい。

 キャンプサイトで朝食をとったあと、もうひとつの目玉、チャガシララケットカワセミを探しに行く。ここでもダニエルの卓越した技術が冴え渡る。抜き足差し足で静かに森を進んでいるかと思うと、覆いかさなる葉や枝のわずかなすき間から、見事に目当ての鳥を見つけ出したのだ。またもポインターで教えてくれるが、そうやって示されてもどこにいるのか、いまひとつわからない。スコープで入れてもらって、ようやく納得できるという具合なのだった。また、ダニエルはその近くに珍しいシロエリズクヨタカの巣を見つけていた。夜行性の鳥であるが、幸い巣穴から顔をのぞかせている。フクロウともヨタカともつかない愛嬌のある顔にすっかり見とれてしまう。

▲かろうじてビデオに納めることができたチャガシララケットカワセミ。長い尾の先が白くなっているのがおわかりいただけるだろうか。
▲ユーモラスな顔つきのシロエリズクヨタカが巣穴から顔をのぞかせている。

 午後はパシフィック・アドヴァンティスト大学の構内に移動し、水鳥の観察。その間にもダニエルは木の上を見上げ、なにかを探しているもよう。しばらくすると見つかったのか、スコープで一点をとらえると、意味ありげに微笑んでのぞかせてくれた。これにはびっくり。観たかったパプアガマグチヨタカが2羽、止まっているのである。大きな鳥なのだが、重なるようにして横枝に止まっていたので、完全に樹肌と同化して気がつかなかったのだ。この2羽はオスとメスのようで、近くにはもう1羽、幼鳥の姿も。憧れの鳥を3羽も観られて幸福幸福。ヴァリラタにしても、この大学の構内にしても待っているだけで数多くの野鳥を観察でき、非常によい探鳥地だった。

▲しばらくすると後方の個体が体を起こした。正面から見るとカエルのような顔でかわいらしい。それにしてもでっかい口。

 6日目の午前中はココヤシのプランテーションを経て、マングローブへ。片道2時間もかけて来ただけあって、ここもまた鳥の種類の多いところだ。ヒジリショウビンにモリショウビン、オニサンショウクイやハチドリ、キバラタイヨウチョウ、キジバンケンなどを見ていると、河川になにやら見覚えのある魚が。どうやらテッポウウオのようである。子どもの頃から名前のみ知っていた魚と対面できて、心の中から喜びが湧き起こる。鳥をそっちのけで、しばらく双眼鏡で観ていたが、残念ながら水鉄砲の技を披露してはくれなかった。

 午後はゴムのプランテーションなどを通ってブラウンリバーに場所を移し、ラケットカワセミを探しに行く。この鳥、相当に神経質らしく、残念ながら今回は姿を拝むことはできなかった。それでも美しいチャバラワライカワセミが観られたのでよしとしよう。

▲汽水域の水面近くを泳いで餌を探しているテッポウウオ。
▲これもまた葉と葉の間の狭いすき間からかろうじて撮影できたチャバラワライカワセミ。

 最終日の午前中はチャバラニワシドリとその巣をのんびり観たりして、結局この滞在中に122種の鳥を観察することができた。これもひとえにマックスやダニエルなどの現地ガイドのおかげである。非常に充実した探鳥ツアーであった。

▲この地味な鳥がチャバラニワシドリ。
▲オスはこのような東屋を作り、メスを呼び寄せる。手前に緑の葉が少し見えるが、いまから全面を緑色で飾るのだ。
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