9月8日(金)晴 龍郷町秋名
秋の渡りが始まっている。稲刈りの終わったここ秋名の水田にもシギチが混じるようになってきた。水田にはタカブシギやクサシギといったTringa属の地味目なシギが多い。車をそっと近づけないと、ピピッとかチュチューィとかいう甲高い悲鳴とともに逃げられてしまう。結局、飛ぶと目立つ白い腰を恨めしく後ろから眺めるはめになるのだ。逃げられないようにゆっくりと車を近づけ、停める。Tringa属では派手目なコアオアシシギが1羽、長い足を折り曲げて餌を採っているのを発見、しばし観察する。
畦の近くにウズラシギ1羽を発見。しばらく観ているともう1羽飛来。同じような色合いだかウズラシギだと思って双眼鏡を合わせると、おやまあ、エリマキシギじゃありませんか。バフ色と呼ばれる、上品な黄褐色の羽毛をまとった冬羽だ。時折首を伸ばして背伸びをするのはお得意のポーズ。近くをコアオアシシギが通り過ぎたので、大きさを比べると、ほぼ同じくらいの大きさ。ってことはメスかなあ? あまり自信がないけれど。
9月21日(金)曇り 龍郷町本茶-長雲線
今週は毎晩夜の林道を走っている。目的はアマミマルバネクワガタ。去年は会えず終いだったこのクワガタに何とか会いたいと、発生木として条件のよさそうなシイの古木を探して歩いているのだ。
今晩は早め、日没前から行動を開始した。釣瓶落としの例えもあるように秋の日はいきなり暮れて暗くなる。午後6時半自宅を出たときにはまだ明るかったのに、午後7時に本茶峠まで着いたときには周囲は一面闇の中であった。ここからは車のスピードを遅くし、電信柱や道路脇のシイの木を眺めながら進む。この辺りではアマミマルバネクワガタよりも、むしろアマミミヤマクワガタ狙いである。ふいに車の前を鳥の影が横切る。電線に止まったみたいなのでライトを当ててみると、アオバズクであった。ボクが見つけるより先に、クワガタを捕まえたんじゃないだろうなとひと睨みしてやったが、睨めっこをしたら絶対に勝ち目はなさそうだ。
目を舗装道路に転じてしばらく車を進めるとなにやら動く虫が…サソリモドキかなと思ってライトで照らすと、なんとまあ憧れのアマミマルバネクワガタではないですが。このクワガタ、発生後期には道路上を徘徊する習性が知られているが、この時期にもう地面を歩いているとは予想外である。ともあれ、喜び勇んで駆け寄る。中くらいのサイズのオスだ。黒光りする丈高の丸い背中が実にカッコイイ。これですよ、これ! 写真を撮りたいのだが、舗装道路じゃ絵にならない。発生木まで連れて行くことにした。
ポイントについて木に止まらせて記念撮影。明らかな「やらせ」だが、誰を騙すつもりでもないのでいいじゃないですか。「やっぱいいよなあ…」と満悦していると、近くの森からキャッ、キャッキャッキャッというでっかい笑い声が響く。姿は確認できなかったが、おそらくケナガネズミであろう。この動物も未見。マルバネは見れたので、次はケナガじゃ!
9月28日(金)曇りときどき雨 瀬戸内町高知山展望台
大学時代の同級生で現在国立環境研究所に勤めている永田くんが奄美にやってきた。彼は持ち込まれた飼鳥のメジロによる野生の在来メジロへの影響調査を今年から始めた。そのサンプルを捕まえると同時に、10月にバンディング講習会を受けるボクの予行練習を兼ねてかすみ網でメジロを捕獲しようということになったのだ。25日、26日と雨の蒲生崎は失敗に終わり、27日の午後、ここ高知山展望台で網を張ったところ4羽のメジロがかかったので、今日は朝から同じ場所で試してみる。高さんにも手伝ってもらい、午前8時半から網を張って待つ。
しばらく待っていてかかったのがズアカアオバト。風に乗って網に飛び込んできた。思わぬ大物に一同色めきたつ。それからまたしばらく待つと今度はメジロが…と思うと近づいてみるとムシクイであった。ムシクイ類というのはとりわけ識別が難しい仲間の鳥である。捕まえて間近で観ても種名がわからない。羽色は上面が少しオリーブがかった褐色で、下面が汚白色、白っぽく長い眉斑が目立つ。頭央線も雨覆先端の白帯もない。これだけではなんとも特定できない。どうやら若い鳥らしいことも、識別を難しくしている要因のひとつだ。この場ではムシクイSPということに。(体の測定結果や翼式から永田くんが後日調べてくれたところではなんとキタヤナギムシクイだとのこと! なんと奄美初記録です。)バンディングの面白いところは普段はなかなか観察できないこういう鳥が偶然捕まるところ。
これで期待が高まったが、うまくはいかないもので午後になるとさっぱり鳥がかからなくなってしまった。夕方まで待ってようやくサンコウチョウがかかったものの、風を孕んで網がふくらんでいたために取り逃がしてしまう。結局この日は17時半まで9時間かけて目指す肝腎のメジロはゼロ。バンディングとは待つことなりと心得たり。