2002年  2月のフィールドノートから

2月9日(土)曇り 住用川

 ここ数日、上手さんとゲンゴロウ探しを続けている。彼は愛媛大学の大学院生で、農学部の環境昆虫学教室でゲンゴロウの幼虫の生態と分類の研究をしている。昨年8月のこのHPにフチトリゲンゴロウを掲載したのを見て、アプローチしてくれたのだ。AOCが取り持った縁は大切にせねばと、彼をわが家に招き、時間の許す限りゲンゴロウ採集に同行することにした。

 奄美では30種類強のゲンゴロウが記録されているが、今回彼が特に狙っているのはフチトリゲンゴロウ、ナガチビゲンゴロウ、フタキボシケシゲンゴロウの3種。いずれも南西諸島の固有種で、数がそれほど多くないゲンゴロウたちだ。来島初日に幸先よくナガチビゲンゴロウはゲットできたものの、大物フチトリゲンゴロウはなかなか難しい。昨夏にボクが採集した池では、オキナワスジゲンゴロウ、トビイロゲンゴロウなどの南西諸島固有種やコガタノゲンゴロウという絶滅危惧種はそこそこ採れるもののフチトリはまるでかからない。しかたないので今日は場所を変えて、渓流性のフタキボシケシゲンゴロウを探すことにした。

 住用川の上流域の渓流に降りてみる。普段はあまり人が入る場所ではないので、降りるのは大変だが、水は澄み木漏れ日が美しい。奄美の渓流は今でもどこも大変きれいだ。流れに足をつけるだけで心が癒されるような気持ちになる。よく見ると砂地にエグリタマミズムシがたくさん泳いでいる。期待できそうだと、網ですくってみるとさっそくフタキボシケシゲンゴロウを捕まえらることができた。

 レッドデータの昆虫がこんなにたくさん残っている水辺を誇りに思い、このまま守っていきたいと切に感じた。

▲頭部と胸部が癒合してヘルメットのようになったエグリタマミズムシの成虫。
▲体長約2.5㎜のフタキボシケシゲンゴロウ。泳ぐと背中の黄星がよく目立ってかわいい。

番外編 2月12日(火)~15日(金)  出水

 山階鳥研の馬場さんから出水でバンディング調査を行うという連絡が入ったため、急遽ヴォランティアで参加することにした。実は丁度20年前に出水の鳥類観測ステーションでバンディングの講習を受けたことがあり、それ以来の同施設への訪問と相成った。

 着いたのが12日の夕刻、馬場さんとトカラ列島の中之島在住の小倉さんとですでに網を張ってあり、この日一日の成果はアオジやウグイス、シロハラなど16羽とのことだった。

 翌13日は雨交じりで寒い一日。成果は15羽。ツリスガラが3羽かかったのが嬉しい。かつては冬の九州くらいでしかお目にかかれなかった鳥だが、近年の越冬地は関東あたりまで東進しており、むしろ西日本では数が減っている。このツリスガラは本当に小さく、手のひらにすっぽりおさまってしまうくらいの大きさしかない。体重も9グラム程度。こんな小さな体でよく渡りをするものだと感心する。夕方から北九州の武下さんが合流。

 14日は一転快晴。天気がよいとツルたちが群れをなして上昇気流に乗っては、次々と繁殖地へ帰っていく。成果は16羽。ウグイス、オオジュリン、ホオジロ、ホオアカ、アオジ、モズ、シロハラなど。この地で捕獲されるシロハラはなぜかほとんどが再捕。毎年同じ場所で越冬する習性が認められる。馬場さんは細かくウグイスを測定している。先だって沖縄でダイトウウグイスが確認されて以来、ウグイスは俄然注目を浴びている。日本人にとってかくも身近な鳥でさえ、その生態などは不明な点も多く、ボクも最初はウグイスの調査あたりから手をつけようかと思う。

 15日も晴れ。前日に続くツルの北帰行を見ながらステーションを後にし、夕方帰島。結局、出水ではステーションと網場の往復に明け暮れ、ソデグロヅルもアネハヅルも観ることができなかった。

▲ツリスガラのオス、手にとるとその小ささが一層よくわかる。

2月27日(水)晴れ 瀬戸内町白浜

 きれいな満月の夜。晧晧と輝く月に誘われてナイトウォッチングに出かけた。冬の大潮の夜は干潮時の潮位がとても低くなり、潮溜まりの生物を観察するのにもってこいの機会なのだ。干潮のピークは深夜1時頃なので、それまでは林道を走って時間つぶし。今夜はとてもアマミヤマシギが多い。ひと晩で30羽は軽く観た(なかにはただのヤマシギが混じっていたかもしれないが)。冬の間拡散していたアマミヤマシギたちが繁殖期を前に集結しはじめたのか。いまだに行動には謎の部分も多いので、継続中のテレメ調査の結果が待たれる。

 さて、目指す白浜には0時半頃到着。海の中にはぽつりぽつりと明かりが見える。引き潮に逃げ遅れたタコや貝を採取するイザリ漁を楽しんでいる人たちの照明だ。ボクも遅れじと着替え、海に入る。冬の海といっても海水温は20度を下回らないので、冷たくはない。今夜は大気温も高めなので、なかなかに快適である。イザリ漁の人たちは砂地とリーフの境目辺りを探しているが、それを尻目に磯だまりへ向かう。さて、どんな魚が見られるだろうか。

 さっそくゴンズイの稚魚を発見。この魚はナマズの仲間なのでひげがある。五センチに満たないサイズの稚魚たちが集まって、いわゆるゴンズイ玉を作って泳いでいる。黄色いストライプがおしゃれな感じであるが、うっかり手を出そうものなら、ヒレの棘にたくわえた毒で大変な目に会う。注意注意。

 リーフの間には、いろんな魚が取り残されている。赤いベラのような魚や、体が丸みを帯びたウミタナゴ似の魚、口先を突き出したカワハギみたいな魚もいる。もっと魚の名前がわかれば楽しいだろうと思う。あ、ボクにもわかる魚がいた。クマノミだ。イソギンチャクから離れて、おどおどと泳いでいる。わかるといっても、クマノミにも何種類もいる。クマノミだということまではわかっても種まで同定できないのが哀しい。

 砂地に出てみると、平べったい魚がいた。カレイ、それともヒラメ? 口が左にあるのでヒラメの仲間であろう。本当に底砂とそっくりの体色をしていて、改めて見事な保護色に驚かされる。感心していると、足下を小型のタコがすっと泳いでいった。イザリ漁でみんなが狙っているスガリというタコだ。ボクも慌てて影を追うが、相手はすでにリーフの中に隠れた後だった。

▲ゴンズイの稚魚。うっかり手を出すと、毒で痛い目にあう(経験アリ)。
▲クマノミの一種。オレンジとホワイトの大胆なコントラストが美しい。
▲口が左にあるのでヒラメの仲間。砂地で探すのは相当に難しい。
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