2012年 11月のフィールドノートから

11月10日~12日 喜界島

 地元の愛鳥家の間では10年程前から喜界島では夏にもモズがいることが知られていたそうだが、その巣が見つかって確実に繁殖が確認されたのは今年のこと。7月に営巣状況の確認を行うと同時に大まかな生息分布を調べ、10月には全島での生息状況を詳細に調べた。今回は鹿児島県立博物館の移動博物館というイベントに講師で招かれたついでに、できればモズに個体識別用の標識をつけたいと、バンディングを行った。

 喜界島へは過去に何度も来ているが、11月に来たことはなかった。来てみてびっくり。全島、鳥で満ちているのだ。奄美大島でも今季冬鳥の出だしは快調で、渡り途中の鳥や越冬に訪れた鳥が多めなのだが、喜界島はその比ではない。島が平らで発達した森が少ないので鳥が観察しやすいせいもあるのだろうが、どこへ行っても鳥の声が聞こえる。海岸のシャリンバイの実には本土産のヒヨドリが集まっているし、農耕地のスズメの群れの中にはニュウナイスズメがごっそり交ざっている。夜の農耕地ではコミミズクやヨタカを至近距離から観察できた。

 肝心のバンディングのほうでは目的のモズこそ捕まらなかったものの、他の成果があった。網に赤橙の鳥がかかっているのを遠目に見て、なぜ喜界島では繁殖していないはずのアカヒゲが? と思って近づくとコマドリだった。また、メボソムシクイs.l.もかかるなど、うれしい発見の連続だった。渡りの時期の喜界島、なかなかの穴場なのかもしれない。

▲スズメかと思って双眼鏡で覗くと、ニュウナイスズメの群れだった。
▲10mくらいまで車で近づいても逃げなかったコミミズク。
▲まさか捕まると思っていなくて驚いたコマドリのオス。

11月18日 徳之島

 2年ぶりの徳之島探鳥会。日帰りの慌ただしい日程だったが、まずは今度天然記念物に指定されるという伊仙町の明眼の森に行ってみた。琉球石灰岩上に残る森は、かつては琉球王国の按司の居館があったり、風葬の場所となったり、ノロの神山として守られたりしてきた、神聖な場所である。4.6ヘクタールとさほど広いわけではないが、アマミアラカシを中心とした樹林は自然度が高く、絶滅危惧植物が13種も含まれているという。巨大なドリーネの中に入ると鬱蒼とした植物の発するオーラに圧倒される。まさにパワースポットである。アカヒゲがすぐ近くまで近寄ってくれたりもし、バードウォッチングスポットとしても楽しい場所。奄美大島にこれに類似したような場所はなく、これまで知らなかったのが悔やまれるようないい森だった。

 続いて犬の門蓋へ。先に徳之島入りしていた知人がこの場所でアシブトメミズムシを見つけたというので、弁当片手に海岸に下りて、石をひっくり返す。目指す虫はすぐに見つかった。何度見てもいい虫だね、アシブトメミズムシ!

 かきこむように弁当を食べて、浅間海岸へ移動。今回は地元のNPO、虹の会との共催で、徳之島在住の多くの自然愛好家が集まってくださった。前日に行われたという講演会にいらっしゃっていた鹿児島環境学プロジェクトの皆さまも合流していただき、賑やかな探鳥会になった。時間が悪く、干潟の鳥は少なかったが、ここの主役のクロツラヘラサギを始め、渡りの途中のシギやチドリ、さらにはアカハラやマミチャジナイなどのツグミ類をじっくりと堪能できた。

 帰りのフェリーでは充実した1日を振り返りながら、ビールで喉を潤し続けたのであった。

▲明眼の森の入口の鳥居にミドリマイマイがついていた。豊かな森の証拠。
▲久々に対面したアシブトメミズムシ

11月21日 大和村フォレストポリス

 今シーズンは冬鳥が多そうで楽しみだ。フォレストポリスのパークゴルフ場とグラウンドにはツグミ、シロハラ、アカハラ、タヒバリが降りていた。それを眺めていると近くのブッシュからチッというホオジロ科の地鳴きが聞こえた。そういえばまだアオジを観ていないなと思いつつ双眼鏡を向けると、オオジュリンではないか! 本土では大騒ぎするような鳥ではないが、奄美にはめったに渡ってこず、私も島生活13年目にして初観察である。珍鳥もいいけど、こういう普通種もテンションが上がる。オオジュリンのビデオを撮影していると、わたしも撮ってと言わんばかりにミヤマホオジロがフレームインしてきた。

 水辺の広場に回ると、ヒメガマの茎にオオヨシキリが止まっていた。地面にはビンズイが降りており、人の気配を察知するやいなや木の枝に飛び移り、さかんに尾を振っている。上空をゲェーとしわがれ声のルリカケスが横切った。

▲奄美ではめったにお目にかかれないオオジュリン
▲こちらは冬羽のミヤマホオジロのオス