2020年 10月のフィールドノートから

10月8日 奄美市名瀬金作原

 環境省のモニタリング1000のピットフォール調査のために金作原の林道を歩いていると、沢からピキュピキュと声が聞こえてくる。アマミハナサキガエルが繁殖に入ったようだ。沢に下りてみると、ところどころにアマミハナサキガエルのオスの姿があり、人が近づいたのにもかまわず鳴いている。よく探すと、メスの上に乗っかり、メスをガードしているオスの姿もある。繁殖の最盛期はこれからなのか、卵はまだあまり見つからなかった。

▲メスをガードするオスのアマミハナサキガエル。
▲アマミハナサキガエルの卵は白い。

10月9日 龍郷町奄美自然観察の森

 時間があったので自然観察の森をゆっくり散策。現在ここは整備が進められている。無事に奄美大島が世界自然遺産に登録された暁には、奄美の自然を体感できるスポットとして、より多くの観光客の方に利用してもらおうという肚積もりのようだ。たしかにこの森は遊歩道が整っていて歩きやすいし、奄美のいろいろな固有種も観られるので、よい判断だと思う。ドラゴントリデに向かう途中の遊歩道の木陰でヤンマが羽を休めているのに遭遇。色合いから考えて、アマミヤンマのようだ。あまり数の多くないトンボだけに、ラッキー。ドラゴントリデに登って森を俯瞰していると、林冠をかなりのスピードで巡行しているチョウを発見。アカボシゴマダラだ。止まってくれないかと待っていると、近くの枯れ枝に止まってくれた。

▲羽を休めるアマミヤンマ。
▲枯れ枝に止まるアカボシゴマダラ。

10月24日 龍郷町奄美いんまや動物病院

 動物病院の伊藤圭子獣医からスマホに保護鳥の画像が送られてきた。なんとびっくり、ウミツバメだ。さっそく観にいってみた。上尾筒が白いのでコシジロウミツバメかクロコシジロウミツバメだと思われるが、いかんせん両種とも未見なので識別の自信がない。写真を撮って、両種を調査している識者に画像を送り、同定してもらう。翌日返ってきた回答によると、コシジロウミツバメとのこと。奄美海域では初記録だ。これまで伊豆諸島では記録があったが、それより西の記録はほとんどないということなので、希な迷行例と言えるだろう。

▲保護されたコシジロウミツバメ。

10月26日 奄美市笠利町笠利崎

 秋の渡り鳥調査のために、奄美大島最北端で網を張った。捕まるのは地元のメジロとヒヨドリばかりで、渡り鳥調査にならないなあとぼやいていると、キビタキの幼鳥がかかった。亜種リュウキュウキビタキとは羽色が違うので、亜種キビタキと思われる。続いてウグイスのメスがかかる。奄美大島ではウグイスの渡来は毎年10月下旬から11月上旬。今年も、早くも越冬にやってきてくれたようだ。渡り鳥が捕まりはじめたなと思っていると、目の前を褐色のムシクイが鳴きながら横切っていった。ムジセッカに近いが微妙に異なるこの声はカラフトムジセッカではなかろうか。捕まってくれると確認できるのだがと期待していると、実際に捕まったではないか。過去に捕まえた経験のあるムジセッカよりも確実に大きく、眉斑の模様や下尾筒の色から考えて、カラフトムジセッカに違いない。おそらく奄美群島で初めての記録だ。標識したうえで各部を測定したが、どんぴしゃでカラムジである。しかし、ムジセッカ類は翼が短く、独特の翼式をしている。そのため、手に取るとやたらと尾が長く見え、プロポーションがムシクイ科の鳥には見えない。次の見回りの際にはメボソムシクイ上種の個体が捕まる。これも識別に迷う種だが、測定値やP10の形状はメボソムシクイを示している。放鳥時にジッとひと声鳴いたのも、メボソムシクイらしかった。

▲尾が長く見えるカラフトムジセッカ。
▲メボソムシクイ上種は識別が難しいが、この個体はメボソムシクイ。